北海道旅行記 2002 その6


8月7日 最北端宗谷岬

 昨日も夜が更けてくると雨が降った。この旅行は毎夜、雨が降っている。夏の北海道旅行は雨にたたられることが多いがこれだけ続くのも珍しい。幸いにして朝になると上がっていることがほとんどだ。今日もそうだった。テントの外に出て朝の冷気を胸いっぱいに吸い込んだ。まだ、6時前だがもう走っているライダーがいてキャンプ場近くの千畳岩を見学している。ふと横を見ると昨夜遅くにこのキャンプ場に着いたライダーはもうテントを撤収して次の場所に出発する準備をしている。トイレに行くついでに彼に朝の挨拶をした。

 千畳岩のところには東屋があったのでそこで朝食をとろうと思い、昨日買ったカレーパンと缶コーヒーを持っていった。やはり朝は気持ちがいい。ちょっと寒いけど静かで穏やかで海を見ながらの朝食は本当に贅沢な気分にさせてくれる。朝食をとった後、千畳岩を見学した。荒々しい岩礁が続いていてそれに波が砕けて白い飛沫が上がっている。朝、早いからゆっくりと静かな時間を過ごすことができた。

 キャンプ場に戻ると道の反対側の敷地に鹿の親子が佇んでいた。こんなところに鹿が出るなんてびっくりしたが地元の人の話によるとそんなに珍しいことでもないらしい。鹿の親子はのんびりと草を食んでいる。テントに戻りカメラを持ってきて2回シャッターを切ったらフィルムがなくなってしまった。まあ、いい、後は鹿をゆっくりと見ていることにしようと思った。鹿の親子はもう満足してしまったのか、敷地の横に広がる茂みに中に戻った。今回は丹頂鶴のつがいといい、この日の鹿の親子といい、動物に縁があるようだ。

 顔を洗い、テントの撤収にかかったが風が強くて苦労した。この旅行中は雨だけでなく、風が強い日も続いている。8時ちょっと前に稚内に向けてスタートした。まずはクッチャロ湖に寄った。クッチャロ湖の周辺もずいぶんと変わっていた。キャンプ場もよく整備されたようだし、温泉もできていた。キャンプ場ではちょうど出発の時間にあたったようでテントを撤収している人が多い。クッシャロ湖には水鳥が呑気に泳いでいた。そういえばこの前にクッチャロ湖に来たのはもう10年以上前だったような気がする。その時はTくんと自転車で北海道を回った時だ。今回と同じようなルートを通って稚内まで行った。確かこの先にあるモケウニ沼の辺りで別れ別れになってしまった。ぼくはモケウニ沼の入り口を見逃してしまい、Tくんは独りで行ってしまった。そのモケウニ沼に向かった。

 その入り口を今回も見逃してしまった。相変わらず観光地化されていないようだ。ただ沼までの最後の直線が以前は砂利道だったが、それが舗装されていた。しかしそれ以外は昔のままだった。モケウニ沼は猿払村にあるきれいな沼だが、あまり知られておらず訪れる人も少なくひっそりと原生林の中に佇んでいる。沼の周辺は湿原に覆われており箱庭のような景観をしめし、木道が沼まで続いている。その木道を歩いて沼の辺まで行ってみた。静かで人工的な音がほとんど聞こえてこない。1回訪れたらあまりの美しさに息を呑むだろう。

 モケウニ沼を出発した後、猿払村の道の駅で休憩した。ここにはいろいろとモニュメントがある。遭難したロシア船を供養する碑や自然に対する誓いの碑などが建っている。さらにキャンプ場、温泉、食堂などいろいろな施設も併設されている。国道の下には地下道が出来ていて反対側にも渡れるようになっているが、そんなに交通量も多くないから本当に必要なのかどうかはかなり疑問だ。

 道の駅を出発した後は一路、宗谷岬を目指した。遅い車が前を走っていたのでだんだんと最北の地に近づいているのが実感される。宗谷岬までは草原の丘陵地の中を走る。天気も回復して晴れ間も広がってきて、最北の地に行くのを祝ってくれているようだ。宗谷岬に着いたのは12時ちょっと前だった。ついにここまで来たかと独特の感慨が心にゆっくりと広がった。今年は天候にはかなり苦しめられたが、宗谷岬は晴れていた。最北の碑を写真に収めて宗谷丘陵に上ってみた。

 海上にはサハリンが見えた。しばらく草原の上に座り込んで海を眺めながら風と太陽を体全身で楽しんだ。お腹が減ったので辺りを見まわすとホタテラーメンという看板があったのでその店に入った。店の中を見まわすと植村直己や堀江健一などの冒険者の名前が書かれていて植村直己さんの奥さんのサインや他の有名人のサインが所狭しと壁に貼られていた。これはと思い期待したが、肝心のホタテラーメンはそれほどでもなく、量も少なかったので物足りなかった。

 ラーメンを食べ終わり、しばらくまた宗谷丘陵で休憩してから稚内市内に向かった。市内は所々工事されていて走りづらかったが、ノシャップ岬を目指した。ノシャップ岬は全く雰囲気が変わっていた。前は木製の標識があるだけだったが、岬周辺は公園になってきれいに整備されていた。しかし、整備されたことによって北の岬という風情は消えてしまったような気がする。岬からは利尻島と礼文島が見えた。ここも宗谷岬同様に次々と写真撮影する人でいっぱいだった。

 ノシャップ岬から少し走ると稚内温泉がある。童夢という施設で比較的最近できたものらしく、大変きれいだった。中学生の団体が入りそうだったので入浴を止めようかと思ったがせっかく来たのだし入ることにした。露天風呂からは利尻富士がよく見え、隣の女湯の露天風呂から女子中学生たちが山が見えると大騒ぎをしている声が聞えておかしかった。休憩室も充実していてしばらく横になって休んだ。

 温泉を出た後、オロロンラインを利尻富士を見ながら南下した。風は強いが天気がいいので気持ちよかった。天塩に着いた時はもう時刻は5時を越えていた。鏡沼公園でキャンプをすることにしたが、ここも昨日同様に風が強くテントの設営にはかなり苦労した。テントを設営した後、市街に夕食をとりに行ったが、なかなか店が見つからなかった。天塩の街は空家も目立ち寂れている感じがした。だけど、それが何故か心を落ち着けてくれる。天塩川の川原には街並みとは不釣合いなきれいな公園が作られている。この公園で誰が遊ぶのだろうか?街の子供たち?観光客?もっと自然を生かした方法はなかったのだろうかと思った。

 また街中に戻り国道沿いを歩いていると「フライパン 洋食の店」と書かれた看板が見つかった。どうも裏の路地にあるようだ。一本裏に入ってみたがなかなか見つけることができなかったが、誰も入っていないパンチンコ屋の横にあった。入り口にも「コックが作る洋食の店」と書かれている。ひょっとしたらおいしい店かもしれないと思い中に入ったが、その期待は店に入ったとたん消えた。

 店の中にはマンガ本や新聞が本棚に乱雑に並んでいて内装もかなり昔の喫茶店といった雰囲気だった。会計から料理、配膳まですべてご主人独りで行なっていた。だから注文が決まったら自分で厨房の入り口までいって伝えないといけなかった。他に客は2人で1人はハンバーグ、1人はカレーライスを食べていた。ぼくはメニューにエビが3本入っていてお得と書かれたエビフライを注文した。出てきたエビフライは家庭でも出せそうなものだったが、丁寧に作ってあった。味はそんなにはおいしくはないがやさしい感じの味だった。付き合せのキャベツにかかっているドレッショングが自慢らしく300mlを750円で販売しているようだが、それに関しては家庭で作るものと変わらず売り物にするにはもっと工夫が必要だと感じた。全く知らない街でこういった食堂で食べるのも旅の楽しみのひとつだ。

 テントに戻った後、キャンプ場の近くにある天塩温泉に向かった。ここも比較的最近できたきれいな建物でサウナや露天風呂、うたせ湯などがついている豪華な温泉だ。湯船の温度も3種類くらいあり、一番温度の低いものだといつまででも入っていられそうな感じがする。ただ、浴室にはアンモニアの匂いがしていてそれがこの温泉特有のものなのかどうかはわからなかった。露天風呂に入ってみるとどうも雨が落ちて来ているようだ。昼間は天気がよくて今度こそツーリングが楽しめると思っていたのに…。本当に今回のツーリングは雨ばっかりだ。

 テントに戻ると雨はまだそれほどではなかったが、風が強くテントが大きく揺れる。吹き飛ばさせそうな勢いだ。時間が経つにつれ、雨も強くなってくる。雨は時間とともに激しさを増し、土砂降りといった感じになってきた。これで明日はどうなるのだろう?頭の中で不安が過る。連泊も考えないといけないと思った。つづく…


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