北海道旅行記 2002 その5


8月6日 晴れのち嵐、ワッカ原生花園

 朝、起きると昨夜の激しい雨はすっかり止み、青空が気持ちよく広がっていた。雨ばっかりだったツーリングの流れが変わり、これからは晴れの日が続くような気がする。よく考えてみると今回の旅行で太陽を見るのは始めてのような気がする。テントの前に広がる網走湖を眺めながら昨日買ったカレーパンと缶コーヒーの朝食をとる。カレーパンと缶コーヒーがともて美味しく感じられる贅沢な朝食だ。外での食事は気持ちがいい。これからはツーリングを思いっきり楽しもうと思った。

 テントを撤収して7時に出発する。朝早く出発できると気持ちにはかなり余裕がある。網走湖畔の国道39号から国道238号に入り、能取湖の南岸を走った。ここにはサンゴ草が群生しているところがある。まだ時期が早いため赤くはなっていないが、ここが赤く色づいたらどんなにきれいだろうと想像した。道端にあるサイクリングステーションで休憩をとったが、暑いくらいでじっとしていると汗がじわじわと出てくる。やっと夏らしくなってきた。そして前から行ってみたかったサロマ湖畔にあるワッカ原生花園に向った。サロマ湖の東岸にある細長い砂地にある原生花園だ。車では途中までしか進入できないようで、ワッカには徒歩かレンタサイクルで行くようだ。

 原生花園のレストハウスには8時30分くらいに着いた。ちょっと早く着き過ぎたようで今やっと店が開いたという感じだ。レンタサイクルを借りようかと迷ったが、バイクに乗っているのにチャリンコというのも変な感じだし、歩いても大したことはないだろうと思い徒歩でワッカに向うことにした。ワッカ原生花園にはきれいな花がいっぱい咲いていた。これは歩きで正解だったなと思った。自転車だとスピードがあるため、ついついこのきれいな花々を見過ごしてしまうかもしれない。徒歩だと1つ1つを丹念に楽しむことができる。しかし、花がきれいに咲いていたのは入り口から800mくらいまでで、そこからは砂地の上に草が広がり細い道が延々と続くことになった。

 歩いても歩いても風景はほとんど変わらなかった。このまま歩いて行くと最後にはどんな風景が待っているのかわからないが、最後まで行くことにした。標識があったのでふと見てみるとワッカの森2.9Kmと書いてあり、反対側を示す矢印には駐車場1.5Kmとあった。ということはぼくは今まで1.5kmを歩き、これから2.9km歩かないといけないということだった。今まで約2倍も歩かないといけなのかと思うと引き返したいという気持ちが強くなったが、何となく足は進んでしまう。ワッカの森は果たしてこれから2.9kmも歩くのに値するのだろうか?との疑問が頭には浮かんで消えたが、何となく足は進んでしまう。帰りのことも考えると往復で約9kmも歩くことになる。だけど何故か足が前に出る。

 陽が高くなるにつれて気温が上がってきたようでかなり暑くなってきた。始めはジャケットを着て歩いていたが、途中からTシャツ1枚になった。それでも汗が吹き出てくる。昨日までの寒さが嘘のようだ。だんだんとぼくを追い越すレンタサイクルの数が増えてきた。歩いているのはぼくだけのようだ。こんなことならレンタサイクルを借りればよかったと後悔する。何とかワッカの森に着いた頃にはもう汗びっしょりになっていた。

 終点にはワッカの水というのがあった。塩水と塩水の間から沸いている真水でアイヌの人達にとっては貴重なものだったらしい。飲めるようになっていたので口に含み味を確かめるように飲んでみた。くせがなく冷たくておいしい水だった。この水を頭からかぶったり、首筋にかけたり、腕にかけたりした。体が冷えて生き返ったような気がした。帰路は以外とそんなに長くは感じなかった。たぶん1回歩いているからだろう。それでもレストハウスの駐車場に戻って着た時には、疲れて縁石にしゃがみ込んでしまった。時計を見るともう11時近かった。

 しばらく休憩してから稚内を目指しての北上ツーリングを開始した。サロマ湖畔を走り、道の駅サロマ湖で休憩しているとだんだんと雲行きが怪しくなってきた。さっきまであれほど晴れていたのに今にも雨が降りそうな雰囲気になってきてしまった。道の駅を出て湧別町に入った頃からポツポツと雨が降りだし、あっという間に土砂降りになってしまった。雨具に着替える間もなく、バスの待合室に飛びこんだ時は全身かなり濡れてしまった。雨具を着こんで雨が小止みになるのを待って走り出したが雨は強くなったり、弱くなったりを繰り返した。

 上湧別に入ると雨は一時的に止んだが紋別まで来ると風雨とも強くなり、嵐のような天候になった。紋別の道の駅で天気が少し落ち着くまで待とうと思った。それにお昼だし、お腹も減ったのでここで食事をとろうと思った。喫茶店のような店があったので入りビーフカレーを注文した。ビーフカレーが出てくるまでの間、外を見ていたが嵐のような天候が依然と続いているようで道行く人達の傘が風に大きく揺れている。ビーフカレーはなかなか出てこなかった。よく見てみると店員のお姉さん1人でこの喫茶店とお土産物屋を掛け持ちでやっている。だけど、この空模様だしゆっくり待つつもりでいたからそんなに気にならなかった。

 結局、ビーフカレーが出てくるまで40分くらい待った。出てきたのはいかにもレトルトといった感じの味だった。でも、このような店では仕方ないだろう。こうして待っている間に雨が少しでも小止みになってくれればよかったのだが、そんな気配はなく降り続いている。この紋別で宿をとろうか、それとも先に進んでみようか迷ったが、前に進めば天候がよくなる可能性も半分くらいはあるはずだと思い、また走り出すことにした。雨が強いため電話ボックスの中で雨具をまた着こむ。そういえばAさんが今頃美幌から上湧別にかけて移動している列車の中くらいだろうと思い電話をかけた。

 予想は当たり、Aさんは列車で移動中だった。美幌では暑いくらいで汗をかいたそうだ。道東は天気がいいらしい。列車から見える空も晴れているとのことだった。ということはこのオホーツク海側で天気が悪いのかもしれない。上湧別には雨は降っていなかったが、雨雲が移動する可能性が高いのでひょっとするとAさんが着く頃には土砂降りになっているかもしれないと伝えた。

 ぼくは紋別の道の駅を出発して国道238号で北上を開始した。しかし、雨は依然と強く降り続き、さらに横風も強くバイクは横に横にと流された。それでも止まることなく走りつづけた。雄武町を過ぎ、枝幸町に入った頃から雨が小降りになってきた。進んだことによって状況が好転した。道の駅マリーンアイランド岡島で休憩したころにはもう雨はほとんど止んでいた。これでキャンプしても大丈夫だろう。あとはキャンプ地を何処にするかだ。がんばれば浜頓別くらいまでは行けそうだが、雨に濡れて疲れているため枝幸市街に近いウスタベイ千畳岩のキャンプ場にすることにした。

 先ほどまで雨がかなり強く降っていたようで敷地は水浸しだったが、雨は完全に上がっていた。時計を見ると4時30分過ぎだった。テントの設営を始めたが風が非常に強くかなり苦労した。他には2つしかテントがなかった。テントを設営して一段落すると着ているものがかなり濡れていることがわかった。外からの雨と内からの汗によるものだろう。乾いているものに着替えてから枝幸町内にある温泉に入りに徒歩で向った。国道を30分も歩くと枝幸温泉に着いた。サウナも付いた大浴場で冷え切った体を気持ちよく温めることができた。旅は辛いこと楽しいことがほどよくバランスされているのがいいのかもしれない。ここでついでに夕食をとろうかと思ったが、レストランは泊り客の食事に追われて忙しそうだったので街中でとることにした。

 温泉を出た頃には陽は落ち、辺りはすっかり暗くなっていた。それに街の中心が何処なのかもよくわからない。とても食事処などなさそうな雰囲気だ。それでも中心まで行けば店の数件は絶対にあるはずだと思い、できるだけ広い通りを歩くことにした。

 幸運なことに適当に歩いていたらファミリーレストランのような店があったので入った。客は数人しかおらず、ちょっと不安だったがこれ以上探しても次を見つけられるかどうかはかなり疑問だしここで食べるしかないだろう。枝幸はカニが名物だ。前に旅館に泊まったとき、夕飯に毛蟹が丸々一杯出たことあった。どうせならと思ってメニューを見たがカニ料理はなかった。一番大きな文字で書かれていたのが880円のうな丼だった。880円でうなぎは安いと思いそれを注文した。量はそんなに多くはなかったが、おいしかった。

 食事をとった後、キャンプ場への帰り道にあるコンビニに寄った。キャンプ生活をしているとどうしても野菜や果物を食べる機会が少なくなってしまう気がするので、食後のデザート用にみかんゼリーを買い、明日の朝食用にカレーパンとコーヒーを買った。枝幸の街を国道から見下ろすと国道の手前でぷっつりと切れている通りが何本もあった。もし間違ってこのような通りに入ってしまったら、国道に出ることもできず引き返さないといけなくなる。歩くには要注意の街だと思った。

 テントに帰りみかんゼリーを食べながら地図を見た。そして、いよいよ明日は日本最北の街、稚内だなと思った。つづく…


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