北海道旅行記 2001 その10


夜の海に上がる月

 カキを食べた後は一路太平洋側を釧路方面に向った。だんだんと釧路に近づくにつれ、天気は回復し晴れ間が空に広がりだし青空の面積が大きくなってきた。やった!という感じだ。だけど旅ももう終盤になって天気が回復してくるなんて…本当に運がない。いや、運がよかったのかもしれない。中にもずっと曇りで寒い北海道した体験できなかった人も多いはずだ。

 釧路に入った頃には空は完全に晴れて暖かい陽の光がいっぱいだった。よく考えてみると晴れて暖かい釧路というのは久しぶりのような気がする。釧路までのフェリーが就航している時、僕はほとんどそのフェリーを利用していた。そして釧路に上陸した時に晴れていた記憶はない。いつも雨で寒かった。帰りに釧路から乗る時は晴れていることが多かったように思う。だけど釧路というと雨、寒い…といったイメージが強い。

 釧路を過ぎても晴天が続いた。どうやらこの好天は本物のようだ。途中、道の駅しらぬか恋問で休憩をした。近くではウインドサーフィンをやっている人とかがいて気温はやや低いが夏を感じさせた。しばらく浜辺の腰掛け海をだた眺めていた。やはり心の底からリラックスするためには太陽が必要なのだ。太陽と風と海…必要なのはこれだけ。

 美しい海岸線を見ながら白糠町を過ぎて行く。ふと右を見ると美しい湖が見えた。パシクル湖だ。近くに自然公園があるはずだが…と見てみるがどこにあるのかわからない。近くにある民宿も閉じているようだ。ただ、道の反対側にあるキャンプ場は芝生のきれいな小さいながらもいいサイトだ。海も近い。「ここでもいいかな」という気持が起きた。近くには食堂もあり、ラーメン・豚丼と書いてある看板もある。ここでテントを張って夜になったらその食堂で食事をしてその後は星空を見るのもいいかなと考えた。しかし、道に近いためあまり落ち着けないような気もする。まだ陽も高いことだし、もっと先まで行こう。

 僕は北海道の中でも釧路〜襟裳岬間が何故か好きだ。特に音別を過ぎて広尾くらいまではあまり観光客もなくひっそりしている。地図を見ると今の時間から考えると長節湖か湧洞湖くらいまでは行けそうだった。ただ食事には困ってしまう。ひっそりし過ぎてこれからは食事処もなければ食料品を売っている店もない。原野の中を道路だけ走っているという感じだ。途中でちょっとそれて浦幌の街まで買出しに行かなくては…。それほどの距離でもないし、大きなロスにはならないだろう。その前にぜひ走っておきたい場所があった。それは昆布刈海岸のダートだ。高台の海岸線を緩やかな曲線を描いている走りやすい道だ。ここにある展望台からの眺めはすばらしくよい。

 直別駅付近から国道38号に別れを告げ、道々1038号に入った。やがて海岸線に出たが、そこには息を飲むような光景が広がっていた。海のすぐ近くを走る道に海から上がる水蒸気がかかり、うっすらと白いカーテンが下されている。そのカーテンが風とともにゆらめき動く。そのカーテンの中を僕は進んだ。走っているとこの潮をふんだんに含んだ水蒸気によってテルメットのグラスがぼんやりとしてくる。太陽によって海が熱せられたためだろう。

 トンネルを抜けるとダートが始まる。ここもだんだんと舗装化が進んでいるようだ。ダートはやがてつづら折りの上りとなる。ここを上りきったところに展望台がある。ここから釧路方面の眺めは最高だ。美しい海岸線が貼るか遠くまでよく見える。自転車の団体さんが休憩をしていた。僕もその横にバイクを止め、しばしこの風景を楽しんだ。ここからダートはあまり高低差はなくなり緩やかなアップダウンとなり、きれいな曲線を描く。ただ、数次間前までは雨が降っていたようで道にはかなりの水溜りがあり、気づくとバイクは泥だらけになっていた。陽はかなり西に傾き、その西日を僕は全身に受けている。

 ダートの走りを楽しんだ後、浦幌の街まで買出しに行った。市街地に入るとすぐにセイコーマートがあり、弁当とパン、缶コーヒーなどを買った。ところが帰り道を間違えて逆に入ってしまい、また昆布刈海岸を走ることになってしまった。2回目はさらに陽が傾き、いくらか道が暗くなっていた。夕方と夜の境界線を走っているような雰囲気だ。国道336号に出た時、陽はさらに大きく傾いてもう僕の走っているところには届かなくなっていた。長節湖キャンプ場についた時、陽は長節湖に沈もうとしているところだった。僕は湖畔にテントを設営してその陽を沈むまで飽きもせず眺めていた。静かな時間がゆっくりと過ぎていった。

 キャンプ場に近くにある売店からは松山千春の曲が流れ続けている。どうやら1日中BGMとして流しているようだ。そのBGMを聞きながら浦幌で買ってきた弁当を食べた。目の前には長節湖の湖面が静かに風でそよいでいる。7時近くになり、店じまいが始まるとBGMも止んだ。陽も沈み、夜になり、波が浜に打ち寄せる音が聞こえてくる。

 トイレに行きたくなり、テントのファスナーを開け外に出た。このキャンプ場は前に長節湖、道路を挟んだ反対側には太平洋が広がっている。その夜の太平洋を見て息を飲んでしまった。海の上には月が上がっていて、その月の光が海に移り独特の光を放っていた。淡いほのかな感じの一筋の光が僕の方に向っていた。そのほのかな光が波に揺られて右に左に上に下に揺れている。今までこんな光景をみたことはなかったような気がする。僕はトイレに行くのも忘れてしばらくその光を見つめていた。(つづく)


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