開陽台の駐車場に入る入り口にちょっとした小屋のようなものがあった。ひょっとしたらと言ってみたら案の定電話ボックスだった。開陽台に着いたもののどうやってAさんにそれを連絡しようかと思っていたのだ。本当に僕は先のことを考えないで動いていると思った。その電話ボックスから彼女に電話した。彼女はすぐに出た。
「もしもし、Kですけど、Aさん?」
さて、お腹もいっぱいになったし、2階にある屋内の展望室でAさんを待つことにした。だが、ちょうど混んでいる時間帯だったのか、開いているベンチがなかった。ふと見ると一人で座っているライダーの隣が空いているようだったので声をかけて座った。そのライダーと話してみると彼は前日多和平でキャンプして今やってきたそうだ。僕も朝、多和平に寄ってきましたよというと情けなく笑った。
僕よりちょっと年配に見えるその男性はかなり疲れているようだった。それはそうだろうこの寒さの中キャンプを続けていたら寒さでまいってしまう。それに北海道に来るまでは誰もこんなに寒いとは思わないだろう。今年の寒さは僕が経験したなかで2番目くらいのような気がする。特にここ2年は暖かい北海道だっただけに…。彼は明日、苫小牧からフェリーで帰るそうだが、ここから苫小牧は結構距離があるが明日中に着けばいいんだからと言った。彼もこの雨と寒さのため、積極的に走りたくないようだった。そうこう話しているうちにAさんが思いもかけない方向からやってきた。
その牛乳はおいしかった。普段はあまり牛乳は飲まないのだが、甘くて濃いその牛乳は別物のような感じだ。小学校5年の時、初めて日光で飲んだ濃い牛乳を思い出した。彼女もこの悪天候には困っているようでほとんど1日寝て暮していると笑っていた。それからは3人で北海道もことを延々としゃべり続けることになった。傍から見たら奇異な光景だっただろう。みんながみんな古い開陽台の展望台を知っていたりするのだから。 2時間もしゃべっていただろうか… そろそろお開きにしようということになった。この天気だと開陽台でキャンプするより、市内でキャンプか宿をとったほうがいいだろうと思い、そうすることにした。市内には緑ヶ丘森林公園キャンプ場というのがあるのでそこにテントを設営することにした。Aさんから国道沿いに行けばコンビニもあるという情報をきいた。ここでキャンプして市内にあるマルエー温泉に入りに行って、帰りに市内で何か食べ、翌日の朝食用の食材をコンビニで買うという計画ができた。雨はほとんど止んでいたのでキャンプでも大丈夫だろうし、上士幌のように寒いことはもうないだろうと思った。 緑ヶ丘公園を探すのにかなり苦労してしまった。すぐ横を通りすぎていたのだが、表示がないためわからなかったのだ。やっと見つけてキャンプ場に向ったが公園の入り口から2Kmもあった。このキャンプ場は名前の通り森林の中にある感じのいいところだった。受け付けがあるロッジの木製の手摺りにはシマリスが乗っていたりした。 4時ちょっと前にキャンプ場に着き、テントの設営を終えるとまた雨が降ってきた。傘を持っていない僕は雨が止むまで気長にテントの中で待つことにした。一時間くらい待っていると雨のどうにか止んだので中標津の街に行こうと歩き出した。とにかくここから公園の出入口までは2Kmもあり長く感じた。途中で雨が弱く降り出したが、それ程強くはならなかった。まずはマルエー温泉だ。 ところがここはかなり立派なホテルになっていたのだ。入浴だけできるのだろうか?と様子をうかがっていると中から家族連れが出て来て車に乗り去っていった。どうやら大丈夫のようだ。フロントでその旨を申し出てお金を払い浴場にいった。なかなかいい温泉だった。この寒さだ少しでも体を温めておきたい。温泉から出た後、街中を食事できる場所をさがしながら歩いているとレストランがあったので入ることにした。 客がほとんど入っていないのが気がかりだったが、中標津はそんなに大きな街ではないし、これからさらに歩き回るのも億劫だ。ハンバーグ定食を注文したらエビフライや食後のコーヒーも付いていてそれなりに豪華だったが、味はいまひとつだった。 食事が終ると明日の朝食をしいれないといけない。Aさんに教えてもらったコンビニに行こうと探したがどうしても見つけることができなかった。仕方ないので近くにあったAコープに入り、パンと缶コーヒーを買って帰った。テントに戻るともう7時を過ぎていてかなり歩いたため、汗びっしょりになってしまった。雨は夜になってまた強くなった。明日は雨が止みますようにと空に祈ってから僕は眠りについた。(つづく) |