北海道旅行記 2001 その7


中標津開陽台

 8月3日、今日はアルバイトのAさんに会う予定だ。ここから開陽台までは近い。直行すれば2時間で着いてしまうだろう。窓のカーテンを開け、窓を開けた。何と雨が降っているではないはないか。そのうち止むだろう。止んだら出発すればいい、目的地はすぐ近くなのだ。だが雨は結局止まなかった。

 昨日買った朝食をとりながら朝のTVを見、たまに窓を開けて外の様子を見るが一向に止む気配はない。それどころかだんだんと強くなり本降りになっていった。昨日ちょっとのぞいた青空は何だったのだろう?あの、陽の光でこれからは天候はよくなっていくものだと思っていたし、昨日の天気予報でも雨とは言っていなかった。僕は全く予想外のことが起こったように呆然を雨空を眺めていた。しかし、1週間くらいの期間旅行すれば1日くらい本格的な雨に降られるのは確率的にいって当然なのかもしれない。むしろ全部晴れるということの方が珍しいだろう。雨をそんなに嫌ってはいけないのだ。今回にしても今まで夜や早朝に雨は降っていたが、日中に降られたことはなかった。それがたまたま今日だったのだ。それにしても…と思ってしまう。

 どんなに待っても雨は止みそうになかった。宿の女将さんには「もうちょっと待ってみたら?」と言われたが、8時30分過ぎに宿を出発した。上下ともカッパを着るのはこの旅行で始めてだ。始めは多和平に向うことにした。ここも開陽台と似た場所で360度の展望が楽しめるところだ。僕は今回が始めてだ。弟子屈の街中を抜けてしばらく走ると辺りには牧草地が広がっていつまで走ってもその景色が延々と続く。

 多和平には9時過ぎに着いた。雨とこの寒い気候のため人はほとんどいない。ここはキャンプ場があるがテントの数は3張しかなかった。雨の中、展望台に登ってみた。辺りは雨で煙っていて遠くは霞がかかり、水墨画のようになっている。本当に静かだ。キャンプ場にある東屋でちょっと休憩をする。もう1つの東屋にはたぶんテントの住人だろう、3人で話をしていた。彼らもこの天気ではやることが他にないようだ。

 東屋でのんびりしているとたまに観光客がやってくる。親子連れが来て展望台に登り、すぐに帰っていく。天気がよければ子供の遊び場には最適の場所だと思った。こういう場所で駆け回れる子供は本当に幸せだなと思ったりした。キャンプをするにも最適だろう。1日ボーっとしていてもいいだろうし、夜になれば満天の星を仰ぐことができそうだった。この次に北海道に来る時はここでキャンプをしてみたいな。

 開陽台に向って出発しようと思い、バイクのセルを回したがエンジンが冷えていてチョークを引かないとかからなかった。そんなに長い時間止めておいたわけでもないのにかなり冷え込んでいるようだ。吐く息が白くなった。バイクの暖気運転をしていると観光用の大型バスが入って来た。このような場所にも観光バスが来るのかとちょっと驚いてしまった。北海道も大きく変わってきているのかもしれない。美瑛などは大型の観光バスだらけだし、あの静かだったオンネトーにも観光バスが入っていた。何かが変わってきている。

 多和平から開陽台への道も広大な牧草地に中を走っている。たまに小さな町が現れ、それを過ぎるとまた牧草地が広がる。雨は間断なく降り続き、かなり強い降りになってきた。体が冷えてきたので、何処かで休もうと思い場所を探しているとバスの待合所があった。小屋のようになっているこのバスの待合所は人が3人くらい入れるスペースしかないが、夜ここで野宿する旅人も多いようだ。冬の雪から人を保護するために建てられているのだろう。回りには何もないが、ここだととりあえずは雨だけはしのげる。ここで体がちょっとでも暖まるまで休憩しようと思った。雨が止んでほしいが、そのような気配はない。たまに小屋の外に顔を出して空を見上げるが雲は厚く低く垂れ込めている。

 体も少し暖まったので出発することにした。こうなったら早く開陽台に着いてそこでのんびりしようと思ったのだ。開陽台までいけば温かい飲食物もあるはずだ。開陽台には10時30分くらいに着いた。駐車場にバイクを止めると僕のすぐ後を走っていたオフロードライダーが話しかけてきた。話してみると家が以外に近かった。とにかく寒いということで話が一致した。

 2人で開陽台の展望台に登ってみた。開陽台に来たのは15年振りだ。その時は展望台も粗末なものだったが、今では立派になってしまい何故か上は小さなコンサート会場のような作りになっていた。
「天気がよかったら最高の場所でしょうね」
いっしょに登ったライダーが独り言のように言った。
「全く。天気がよかったらサイコーです」
開陽台はちょっと人の数が多過ぎるが、最近僕はこのような広い場所でゆっくりするのが好きだということが自分でわかった。広くて人気がなくて静かで風と陽の光しか感じない場所…。そういう場所だと本当に心が落ち着いて幸せな気分になってしまうのだ。
「今日はこれからどうするんですか?」
僕の瞑想を彼は破った。
「そうですね。天気がよかったらここでキャンプをしようと思っていたんですが…」
「ここ、超有名な場所ですよね」
「超有名です」
と言って僕は笑った。だけどこの天気だと中標津の市内に宿を取ったほうがいいかもしれない。
「あなたはどうするんですか?」
と僕は彼に訊いた。
「知床の方に行こうと思ってます。ここから近いですし」
「あっちのほうがまだ天気はいいかもしれませんね。天気予報ではそうでした」
と僕は朝見てきた天気予報を彼に伝えた。このあと2人で記念写真を撮ってもらい、彼は知床に向けて出発して行った。(つづく)


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