約六年前、運転免許証のため、メガネをつくろうと思い自宅の最寄り駅近くにあるメガネ屋さんに入った。駅前にはいくつかの商業ビルがあり、その中にはJINSとかZoffとか入っているのだけど何となく足が向かず、やや離れたところにあるその店に入ったのだった。駅の栄えている方と反対側だったので、人の流れはほとんどなかった。たぶんメガネスーパーだったと思う。 入ると客は誰もおらず、店員さんは中年の男女が一人ずついるだけでその後の二人の様子から、ご夫婦で切り盛りしているように思われた。運転免許証用のメガネをつくりたい旨を伝え視力を計ったのだけど、結局、現在使っているメガネで大丈夫と言われた。 その時に老眼が始まって久しく、近くの見えづらくなっていることを伝えると中近タイプのメガネをつくることを提案された。ただ、夏休みの旅行でだいぶ散財していたため作るのを見送り、懐に余裕が出たときにしようと思っていたが、何年も先延ばし状態になっていたのである。 去年の運転免許の更新も近視の具合は以前とわかりなく、十年間につくったメガネで乗り切ったが、老眼はさらに酷くなり、さらにはメガネ自体もレンズが傷だらけになっていて、それによって視界が妨げられることもしばしばで、デスクワーク時にかなり苦労するようになっていた。それで以前に提案された中近タイプの室内用メガネをつくることにした。現在使っている普段用のメガネは二十年前につくったものだった。 中近タイプを提案してくれたメガネ屋さんに行こうとしたのだが、五年間という月日は長く店はなくなっていた。そうなるとJINSかZoffかという選択になるのだが、どうも気が進まない。というのもどちらに駅近の商業ビルに入っているため、いつも多くのお客さんのいる印象がある。できれば空いている店でじっくりと視力を調べてもらいたいという気持ちが強かったのである。 そこで思い出したのは職場近くのメガネ屋さんである。いつもガラガラであまり客の入っているのを見たことがなく、十年前に運転免許用のメガネをつくった記憶があった。妻にいうとJINSに行った方がいいという。ちなみに妻はJINSのメガネをかけている。ただ、口コミを見ていてJINSに否定的な書き込みがあり、それがどうしても気になった。 妻は職場近くにあるメガネ屋さんには、メガネドラッグなのだけど、トレンドのフレームがなく、古臭いデザインばかりだったような気がするという。しかし、店舗面積はかなり広くフレームの種類も多そうで、妻は別の店と勘違いしているのではないかと思った。結局、当初の予定通り、職場近くのメガネ屋さんへいくつもりで家を出た。 しかし、家を出てもなお「どうしようか…」と迷っていた。JINSやZoffの方が価格は安いだろうし、ファッショナブルなフレームも多いのではないだろうかという思いが強かった。駅に着くとGW中だったので、多くの人たちがいた。JINSの入っている商業ビルも多くの人が出入りしていた。それを見て、やっぱり職場近くのメガネ屋さんへ行こうと思った。 電車に乗った後も、これでよかったのだろうかという思いがあった。妻のいうように時代遅れのフレームばかりだったら、イヤだなと思った。職場の最寄り駅に着いたら引き返そうかとも考えたが、とりあえず店に入ってフレームを見てみようと思った。 会社の最寄り駅はターミナルなのでさらに多くの人がいた。しかし、職場近くのメガネ屋さんは駅から少し離れている上、栄えている側ではなかったので改札口から離れるとすぐに閑散とした雰囲気になった。これだったら空いているだろうなと思いメガネ屋さんに入ると案の定、お客さんは誰もいなかった。店員さんは若い男性とベテランらしい男性の二人いた。 店に入ると「いらっしゃいませ。何かありましたらご遠慮なく声をかけてください」といわれた。まずはフレームを見て周った。フレームの種類は多く、妻のいうような古い感じのものはなかった。これだけ種類があるのなら大丈夫だと思い、店員さんに「メガネをつくりたいのですが」と声をかけた。 「最近、近くが見えづらくなってきたので、パソコンはまだいいのですが、机の上に置かれた書類など見づらくなってきて」というと、「お客さんの履歴を調べてみますね」とベテランの方の男性にいわれた。彼はしばらくパソコンを操作していたが十年前に運転用メガネを、さらに二十年前につくった現在普段用として使っているメガネのカルテをみつけた。たぶん、この店ではなかったと思うが、二十年前もメガネドラッグでつくっていたらしい。 「それでは、視力検査をしましょう」といわれ、専用に機器を使って検査が始まった。検査は他に客もいなかったこともあるだろうが、じっくりと三十分以上かけて丁寧に行われた。「それで、どんなメガネをつくるかですが、職場や家の中での使用となると中近タイプですかね」と想像通り中近タイプを勧められた。他にはさらに近くの読書用や運転用もかねる遠近など4つのタイプがあった。以前も中近を勧められたし、自分の用途としてもそれが一番合っているので迷わずそれに決めた。 次にレンズを入れ換えて手元で新聞を見た場合や歩いて違和感を覚えるか試した。きっくりと見えることに越したことはないが、長時間かけることを思うと疲労も考慮しないとならない。そんなことを考えながら、最終的には手元がまあまあクリアに見えて、歩いたときに違和感の少なったものにした。室内用としてのものだが、視力は0.7程度は出ているので、運転をしなければ屋外でも十分に使えると思った。 その後、レンズのグレードの説明になり、カタログを見せてくれたが高いものだと二十万円以上する。中くらいのグレードのものでも五〜六万円くらいで、どうなるのだろうかと思っていたら、通常はこのくらいですねと一〜二万円程度のものを示した。 最後にフレームの説明になり、結局、レンズ付きのものにした。これだとレンズ込みで、二万円台で購入でき、割安だったからである。レンズとフレームが決まり、請求書を作っている時に老齢の女性のお客さんが入ってきた。若い方の男性が対応していたが、どうも以前につくったメガネのクレームのようだった。彼女も中近タイプをつくったようだが、どうも遠くの見え方に不満のあるようだった。若い男性は中近タイプの特性を説明していたが、女性はあまり納得していないようだった。 GW中ということもあったのか、メガネのできるまで十日間くらいかかった。メガネを取りに行き、フレームの微調整をしてもらって、できたものをかけたら、今までいかに見えていなかったかよくわかった。老眼の進んだということもあっただろうけど、それよりもレンズの傷によって所々白っぽい視界になっていた。今までメガネを外してみていた競馬新聞もかけたままでよく見える。 ただ、見えすぎるというのは、必ずしもいいことばかりではないかもしれない。家に帰りトイレに入ったら便座の汚れがきっくりと見えた。(2025.5.6) |