胆のう摘出手術

入院日

 妻は3月に胆管に入り込んだ胆石を内視鏡で取り出したのだが、今度は胆のうを摘出する手術をすることになった。ペルーに帰っていたときに胆石のあることがわかり、それも胆のうがパンパンになるくらいだったらしく、手術をした方がいいといわれていたのである。

 内視鏡による手術を終えた後、次は胆のうを摘出する手術ということになったが、時期については未定だった。術後の通院をしている過程でゴールデンウィーク明けの手術が決まった。時期については妻の希望だった。緊急を要するものではないが、できるだけ早い時期にやってしまいたいと思っていたようだ。

 僕はこの手術については懐疑的だった。というのも、妻はいたって元気で、はたしてこれで手術をしなくてはいけないの?という思いが強かった。石はあるかもしれないが、特に症状はでていないのだからリスクを負う必要はないように思えたのである。胆のう摘出手術はそれほどリスクの高いものではないかもしれないが、体を切るのだから怖さはある。

 しかし、先のことを考えるとまだ若いうちに将来のリスクを軽減しておいた方がいいように思え、ペルーの医師も日本の医師も手術した方がいいと考えているならそれが正解なのだと自分を納得させた。胆石が胆管に詰まって嘔吐や腹痛といった症状を起こすこともあるし、急性胆管炎や急性膵炎など命に係わる病になることも考えられる。

 月曜日、入院するため病院へ向かった。入院前の検査を受けるのだが、何処の窓口にいったらいいのかよくわからなかった。ロビーの案内係の人に訊くと再来受付機に診察券を入れてくださいといわれた。診察券を受付機に入れるとディスプレイに予約状況が表示された。それがプリントアウトされ、指定の窓口に向かった。まずは二階のレントゲンの窓口に診察券とプリントアウトされた予約票を出した。

 しばらくして、名前が呼ばれ、妻はレントゲン室に入っていった。周りに座っていた人たちはいつしかほとんどいなくなっていた。意外とレントゲンに時間がかかり、今度は一階の外科の外来にファイルを出すと「5番か6番の診察室から呼ばれると思いますので、その近くに座ってお待ちください」と言われた。ここはまだ多くの人たちが順番を待っていて、空いている席を探すもの苦労するくらいだった。

 どのくらい待つのだろうと思っていたら、意外と早く名前が呼ばれ、6番の診察室に妻は入った。5分くらいで妻は出てきた。「前に入れたチューブが出たみたい」と妻は言った。チューブが出てしまったのはよかった。もし、残ったままだと内視鏡で取り除かなくてはならない。妻によると朝の排便のときで出たみたいということだった。これで入院前の検査は終わったので入院の手続きをしようと思ったが、妻は喉が渇いたというので病院内にあるコンビニにいった。

 コンビニでは飲み物の他に入院時に用意してくださいといわれたオムツとおしりふきを買った。病院内のコンビニなのでオムツも一枚から買える。11時半くらいに入院手続きを行う窓口に置かれたケースに診察券を入れ名前を呼ばれるのを待った。窓口の前には4〜5組の人たちが待っていて、僕たちに順番が回ってくるのは12時くらいになりそうだった。

 昼時だったため、中には昼食から戻ってきた人もいれば、その逆の人たちもいた。結局はプラスマイナスゼロといった感じで、12時少し前に手続きを終えることができた。受付の女性に「一時になったら、病棟へ上がってください」といわれた。食事を取ろうと思ったが、病院の周辺にはあまり食事処がなく、病院内のコンビニの奥に食堂があったのでそこにいった。

 この食堂は病院内ということに関わらず、メニューは豊富だった。病院の関係者はほとんどおらず、コンビニで済ませてしまうらしく、レジには長い列が出来ていた。食堂に入ると奥の窓際の席に案内された。妻は親子丼、僕はカレーライスを注文した。こういったところのカレーライスはレトルトを温めただけということもあるのだけど、ここのカレーはそんなことはなく、美味しかった。妻も完食した。

 外科の診察室の前のベンチが空いていたので、そこに座って一時になるのを待った。面会の手続きをして7階の病棟に上がり、ナースステーションで声をかけるとすぐに病室に案内された。通された病室は窓際で窓越しに港の風景と高速道路がみえた。「すぐに担当の看護師がまいりますので」といって案内してくれた看護師さんは出ていった。前回は無料のベッドの空きがなく病院の計らいで3000円の部屋をタダで使わせてもらったが、今回は差額ベッド料0円のベッドが空いていた。6人の大部屋には妻の他に独りいるだけだった。

 部屋の雰囲気は前回とそれほど変わらないように思えたが、妻によるとベッドがやや狭いように思えるという。すぐに担当の看護師さんが来た。大柄の女性で妻の担当をする看護師ですといった。彼女からいろいろと入院に関する説明があった。手術は明日の8時50分からという。「それだと8時半くらいに来ればいいのですか?」と訊くと手術を待つことは医師の要請がないとできないといわれた。

 「以前は手術前の患者さんに付き添ってがんばってね!なんてできたんですけど、コロナ禍以降できなくなったんです。手術を待つのは通常の面会時間(13時〜17時)の間だけになっています。これでもずいぶんと緩和されたんですよ」という。この看護師さん、僕は何となく苦手に感じた。ハキハキしていて、大変明るい感じの女性なのだが、上の受け答えからもわかるように、こちらの問いに端的に答えるというよりは、長々といろいろな話を入れてくるので、話の接ぎ穂が見つけづらい感じだった。要は話好きで、しかも自分の話すのが好きなタイプにように思えた。これはもちろん僕の個人的な好みの問題である。ただ、この看護師さんがずっと担当だと疲れるなという気がしたが、どうもこの日だけの担当だったようである。

 「面会時間の13時に来ればいいんでしょうか?」と看護師さんに訊くと、「そうですね。通常の面会の手続きをして病棟に上がってきてください。ナースステーションでJさん戻ってきましたか?と訊いてもらえればいいと思います。担当医から手術が終わったら電話してもらいましょうか?」というので、電話をしてもらうことにした。

 「これから麻酔担当の医師と薬剤担当の者がまいりますが、奥さんは日本語も堪能なようなのでご主人がいなくても大丈夫のように思います。麻酔担当の医師が来るのは夕方になってしまいそうなので、それまで待たれるのは大変ですよね」 「妻は日本語の関しては問題ないので、大丈夫だと思います」というような話をしていたら、麻酔担当の医師が研修生を連れてやってきて、多弁な看護師さんとバトンタッチした。

 麻酔医は40代の女性で研修生は20代前半の女性だった。まず初めに研修生の手術の立ち会いの許可を求めてきた。「実際には施術は行いません。ただ、研修生として見学するだけです」ということだったので、妻はOKしたが何度も「見ているだけですよね?」と訊いていた。この後、全身麻酔や、背中に入れる痛み止めについての説明があった。

 一通り明日の手術の説明は終わり、疲労を覚えてきたので、帰ることにした。病院というのは何故か疲れる。いや、これは病院に限らず、慣れない場所ならどこでも同じかもしれない。「じゃー帰るね」というと「明日は早く来てね」と妻は答えた。(2024.6.10)




皆さんのご意見・ご感想をお待ちしています。joshua@xvb.biglobe.ne.jp

TOP INDEX BACK NEXT