妻の帰国 お母さんのリハビリ

 妻のお母さんは今年で94歳になる。昨年、「お母さんが元気なうちに会いにおいで」といわれ、妻は帰国のタイミングを考えていた。欧米では新型コロナによる規制は撤廃する国々が増えていたが、ペルーではまだそれが続いており、なかなか厳しい状況のようだった。

 日本でも行動制限とか政府からの要請はあったが、それはあくまでも自粛レベルであり、厳しいものではなかったが、ペルーはロックダウンとなっていて個人の行動にはかなりの制約が課されていた。妻のお母さんは地域のお年寄りのよく集まるジンナイセンターに週2、3日の割合で通い、特にゲートボールをするのが好きで、数年前には最優秀選手賞を貰うほどだったが、コロナ禍でジンナイセンターは休止状態になり、この3年間ほとんど外出することなく、家の中で過ごすことが多くなった。

 そのため体力の低下が心配され、家の中で歩行や体操を行っていた。以前、体の不備は耳が遠く他人の声が聞こえづらいといったことくらいだったが、体のあちこちが痛くなったりして、ステイホームの影響が出てきた。家の中だけだとどんなに運動したとっても、筋力の低下は免れ得ない。

 今年に入り、ペルーもようやく行動宣言の緩和が始まり、ジンナイセンターも再開された。ただ、ステイホームで体力の低下していたお母さんは、ゲートボールにはなかなか復帰できなかった。それでも、少しずつ外出するようになり、ジンナイセンターにも通い始め、体力の回復が顕著になってきた。

 本人も意欲がでてきて、約3年ぶりにゲートボールの試合で出場したのだが、そのとき足元にあるボールに気づかず、それを踏んで転倒してしまった。当初、骨折は確認できず、しばらく安静にしていればよくなると診断されたが、痛みと腫れがなかか引かないため、再検査したところ骨にヒビの入っていることが確認された。

 ヒビ自体は軽微なものだったが、ギプスで固定し、しばらく入院することになった。入院中、体のいろいろな箇所に問題が起き始めた。体を動かさないことによる筋肉の衰えや炎症などにより、痛みが手や肩、腰、膝などいろいろなところで起きるようになり、さらに細菌感染により膀胱炎を発症した。お年寄りの入院で一番怖いのは肺炎であるが、幸いにしてそれは免れた。しかし、このまま入院生活が長引くと体力の低下により肺炎を引き起こす可能性は高くなるため、家族はできるだけ早期の退院を申し入れ、病院側も了承してくれた。

 お母さんは家に戻ったが、体力の低下が著しく、椅子に座っているのも疲れるといった状態になっていた。終日ベッドに寝たきりで、食事もベッド、以前は嫌っていたオムツも受け入れるまでになった。このままでは寝たきりになり、ボケてしまうことも考えられ、家族はできるだけリビングでみんなといっしょに食事をしたり、テレビを観たりして、過ごす時間を増やそうとしたがなかなかうまくいかなかった。

 お母さんは昨年話の出ていた妻の帰国を心待ちにするようになり、妻も一刻も早くペルーにいって元気づけたいという気持ちが強くなった。元気なお母さんを訪問する予定が、病床のお母さんを見舞う旅になってしまったことに妻は困惑していた。また妻は自身の骨折した経験から、できればリハビリをしてあげて、もう一度元気なお母さんに戻ってもらいたいという思いがあった。

 6月上旬にようやくアメリカが旅行者に課していた新型コロナワクチンの接種証明書が不要となり、追加接種することなく渡航できるようになり、安堵したのだった。安い航空券を探し、東京〜ニューヨーク〜マイアミ〜リマというチケットを取ることができた。ニューヨークでは3時間、マイアミでは6時間待ちである。マイアミ空港は広くていろいろと施設があるからと妻は前向きに考えていた。

 その間、ペルーのお母さんの状態は一進一退という感じだった。よくなったと思うと、また、悪くなるといった繰り返しだったが、7月に入って歩行機を使って歩くことも出てきた。孫のミツヒデが足のリンパマッサージをしたり、専門のリハビリ医も週2で通ってくれることが改善に向かわせたのかもしれない。次女のヒロミ、長男のキョウジ、キョウジの妻ナンシーなど家族一体となって介護している。

 出発当日、出航時刻は11時なので7時に自宅を出発した。バスと電車を乗り継ぎ、羽田空港には8時半過ぎに着いた。3階の出発ロビーは外国人でいっぱいだった。大きな荷物やダンボールをカートに積んでいる人も多く見られた。妻の取った航空券は聞き覚えない航空会社でカウンターを探すのを苦労したが日航と提携しているところだった。

 久しぶりにみる多くの外国人は興味深かった。出国ロビーだから、日本人もそれなりにいるわけだが、ほとんどが礼儀正しくしているため、あまり目立たない。かといって外国人が傍若無人というわけではなく、自然体で寛いているといった感じだった。彼らにある精神的そして身体的自由はまだ日本人は持っていない気がした。

 チェックインして荷物を預けると搭乗時間の15分前になっていて、妻はすぐに出国口に向かった。(2023.7.15)




皆さんのご意見・ご感想をお待ちしています。joshua@xvb.biglobe.ne.jp

TOP INDEX BACK NEXT