ニオイバンマツリの香り

 最近、ペルーに住んでいる妻の友人のひとりが新型コロナに感染し亡くなり、また、重症でICUに入っている友人もいて、塞ぎがちになっているので少しでも気持ちを和らげようと家の近くにある園芸センターに行った。ここは広く、多くの草花や木々を置いてあり、また、ソフトクリームや食品もあるので楽しいのである。

 店の入口近くに置いてあるワゴンに乗っている植物がきれいな花を咲かせていたので近づいてみた。妻はアイビーゼラニウムが欲しかったらしく、見ていたらあったのだけど、欲しい色ではなかったようだ。引き続きみていると「いい香りがしてくる」と言い出し、ひとつ、ひとつ、マスクを下ろして花の香りを嗅ぎだした。

 「これだ!」と紫と白い花をつけた鉢を手に取った。何という木だろうとタグをみるとニオイバンマツリという名称が書かれていた。初めて聞く名前である。妻はもともと香りの強い花が好きでクチナシ、ジャスミンなどを庭に植え、金木犀の鉢植えを買ってきたりしていた。

 ニオイバンマツリはブラジル、アルゼンチン原産の花木で四月から七月に花をつけ、花は白から紫に変わっていき、盛りには株が花で覆われるほどになるという。耐寒性はやや弱いようだけど、霜の降りない地域では屋外でも冬越しはできるようである。ただ見るだけと思っていたが、あまりに気に入っているようなので買うことにした。760円で多少なりとも気持ちが明るくなれば安いものである。他の植物も見たいのでとりあえずニオイバンマツリは置いて、店内に入った。

 店内は入口近くにソフトクリーム売り場とレジがあり、その奥に観葉植物や切り花、健康食品や野菜売り場がある。胡蝶蘭が美しく咲いており、爽やかな草花の香りが漂っている。明日から東京には緊急事態宣言が出るようだけど、混んではいなかったがそれなりの人が来店していた。

 店舗はアクリル製の天井から太陽光の差し込む大型のハウスに繋がっていて、そこに展示されている花木を見て周った。多くの草花がきれいな花を咲かせていた。その一角では体験教室が開かれていて、数人の男女が熱心もドライフラワーに紐を結び付けていた。外側には庭植え用の木々が並んでいてミカンやキンカンなどの果実系もあり、もっと庭が広かったらなと思った。

 妻はここにあったヒペリカムという葉の緑が美しい花木を気に入り、これも買うことにした。ヒペリカムは家にもあり、昨年の春に地植えにしたのだけど、この冬に葉がすべて落ちて枯れたのかなと思ったが、最近、新芽が出てきて安心したところだった。本来は暑さ、寒さに強く、育てやすい植物のようだ。

 ヒペリカムとワゴンに乗っていたニオイバンマツリのいい株を選び買った。その後、ソフトクリームを買って食べることにした。妻はトチオトメのストロベリー味にしたかったのだが売り切れてしまい、チョコとバニラのミックスにした。入口近くに座れる場所があり、底に座ってソフトを食した。暑さのせいか次から次へとアイスを持った人たちがやってくる。僕はプレミアムソフトにしたが、牛乳の味が濃厚で美味しかった。

 夜になり、外に置いていたニオイバンマツリを玄関の中に置くと芳香が漂った。(2021.4.25)




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