妻の骨折 その4

 入院して三日目、創外固定術という手術を行った。これは数本の金属の棒を足の外側から入れ、足首が動かないように固定させるものだ。足を固定し、冷やすことで腫れを引かせる目的で行う。手術のときも家族は面会もできないし、病院で待つことも止めてほしいといわれた。この日の手術は予備的なものだから、仕方ないとも思えるが、足にプレートを入れる手術のときには面会は叶わなくても、説明は訊きたい。

 この日、会社の終わった後、妻の着替えを持って病院へ行った。受付で面会のカードに記入して、妻の入院している三階に上がった。ナースステーションで荷物の受け渡しを行い、妻の様子を訊いた。手術は問題なく行われたという。先生の説明を受けたいと思ったが、まだ診療中でだめだった。廊下からでも姿を見たいと思い伝えたが、見える位置ではないといわれ、やむなく病院を後にした。

 バスに乗ってしばらくすると、担当の医師から携帯に電話が入った。この日、行った手術の説明と次に行う手術の日程の見通しの話で、一週間から十日後くらいになるといわれた。早く腫れの引くのを祈らずにはいられなかった。ただ、バスの中は周囲の音があり、聞き取れないこともあった。

 手術後、妻から入ったメールによると、足の腫れは順調に引いてきているということだった。この分では手術は早いなと思っていたら、土曜日の朝、担当の医師から電話があり、手術の説明と同意書に署名をしてもらいたいので午後来院してほしいといわれた。約束の時間に病院へ行き、一階の受付によると話は聞いているので三階へお願いしますといわれた。

 三階に上がり、ナースステーションに顔を出すと若手の医師がよってきて「お待ちしていました」とすぐに個室に案内され、「これをつけてください」とフェイスガードを渡された。担当医師はすぐにやってきた。今日は妻も同席になるようで、先ほどの若手が向かいに行った。医師はその間にレントゲン写真や資料を用意した。

 しばらくして、マスクにフェイスガードを付けた妻が若手の医師に車椅子を押されてやってきた。久しぶりに見る妻は顔色もよく、元気そうで安心した。妻が来たところで、医師は手術の説明に入った。手術は水曜日に行われることになった。左足腓骨が折れているため、チタン製のプレートを入れ、ボルトで七か所固定し、三角靭帯が断裂しているために縫合する手術を行うといった。また、腓骨と脛骨(腓骨は二本ある足の骨の細い方、脛骨は太い方)の安定が悪い場合は二本のボルトで止めるという。手術後は三週間足を固定して、靭帯がつくのを待つといった。

 その説明に妻はやや不満気な表情をした。早くリハビリを開始して、少しでも早く退院したいのである。「まずは手術のことを考えましょう。そして、今はゆっくりと休める時期です。リハビリはその後。Jさんはやる気がありますからね」と先生がいうと「やる気はあります」と妻はきっぱり言った。しかし、先生が何かを取りに席を外し、僕と二人きりになりと涙をみせた。

 麻酔と手術の同意書にサインしてこの日の説明は終わった。若手の医師に車椅子を押され病室に戻っていく妻の後ろ姿は寂しげで胸がいっぱいになった。水曜日の手術にも立ち会うことはできないといわれた。長時間、病院で待つことも止めてほしいといわれ、結局、手術の終わる三十分前くらいに電話をもらい、それから駆け付けるという形になった。何故、三十分かというと僕の家から病院までの移動の時間がそのくらいだった。(2021.2.14)




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