長年使っていた電子レンジが不具合を生じ始めた。妻が結婚以前に買ったもので、年式をみたら2005年式となっていたので、15年以上使っていたことになる。完全に故障したというわけではなく、時間の設定ができなくなってしまったのである。前面にあるスイッチの接触不良ではないかと思う。

　時間が設定できないものだから、自動にするか、あとはお弁当とか飲み物など特定のメニューを設定してから動かしていたが、これがなかなか思うようにならない。だいたいが思っている時間より長くなり、あちちという状態になってしまう。それでも、まだ冷えたものを温めたり、凍ったものを解凍するだけなら、何とかなるが、オーブンとして使う場合はそうもいかない。妻はケーキを作るのが好きで、焼き時間はきっちりと設定する必要があり、それができずに不満がたまっていた。

　そして、ネットの口コミ情報などを参考にして、新しい電子レンジを買った。前の物と比べると一回り大きく、機能も豊富で使いこなすのは時間がかかりそうだ。週末にバナナケーキを作り、焼き具合を調べたがだいたい設定通りの時間でいい感じに仕上がったようである。

　不用になった電子レンジは粗大ごみで出さなくてはならない。市指定のコンビニや金融機関で粗大ごみ処理券というものを購入して申し込むようだが、急がなくてもいいだろうと思い、それほど調べなかった。ただ、臭いに敏感な妻は臭いので早く捨てた方がいいといっていた。

　日曜日の朝、「不用品を回収します。洗濯機、冷蔵庫、乗っていないバイクなど大きなもの、壊れたものでも結構です。お気軽にお問い合わせください」という女性の声が拡声器から流れてきた。廃品回収業者が軽トラで近所を回っているらしい。これはグッドタイミングと思ったが、ぐずぐずしている間に声は遠のいてしまった。

　仕方なく、起きて顔を洗い、二階で掃除機をかけていると、また、拡声器の声が近づいてきた。これはと思い、外に出ると妻が業者の男性二人を連れてやってきた。一人は口元に薄いひげを生やして、髪を短く刈り込み浅黒く精悍そうな感じ顔をした30代後半くらいの人で、もう一人はマスクをしてぼんやりと遠めに立っていた。

　早速、電子レンジを持ってくると「ちょっと調べますね」とヒゲの男性がいった。無料で引き取ってもらえるのかと思っていたが、そうではないようだ。「2005年式ですか？ちょっと古いですね。これだけ古いと売ることはできないし…」と言い出した。引き取ってもらえないのかと思っていると、「年式が新しければ買い取りもできるんですが、これだと処分費と回収費、合計で5000円ほどかかります」といった。

　5000円はさすがに高い。こんなことなら市の粗大ごみの出したときの手数料を調べておけばよかったと思った。しかし、どう考えても5000円はしないような気がした。こちらの気持ちが伝わったのか、ヒゲの男性は「他に回収できるものがあれば、回収費の分はお得になりますけど」といった。考えるとガスファンヒーターが不用品となっていた。今の家ではガスファンヒーター用の元栓がないため、使えない。こんどはそれを持ってくると、二つで10000円というようなことを言い出した。

　ここで彼が取り出したのが、料金表というもので、よく考えればこれは業者が勝手に設定した料金を表にして閉じたものに過ぎないが、目の前に急にだされると何やら公共性のあるものに思えて、動かしがたい印象を持ってしまう。しかし、10000円は明らかに法外に思えたし、ガスファンヒーターは故障しておらず、まだ、使えるものだから、止めようかなと業者にいうと慌てて「では二つで5000円ではどうです」といいだした。

　5000円でもまだ十分に高いと思ったが、一応考える振りをすると、すかさず妻が「もっと割引できませんか？」といった。そして、「5000円ではちょっとね」と付け加えた。ヒゲの男性は僕の方をみたので、「妻がそういっているので、今回は…」と断ろうとすると、「それでは二つで3000円でやらせてください」といった。

　3000円でも高い気がしたが、家に置いておいても邪魔になるだけだし、粗大ごみを依頼するのも時間がかかりそうな気がして、それで引き取ってもらうことにした。業者は気の変わるのを恐れてかすぐに電子レンジとガスファンヒーターを軽トラに積み込むと料金を受け取り去っていった。

　廃品として回収された電化製品は使えるものはリサイクルされ、壊れているものは部品、銅板やレアメタルなどを取り出しリメイクされたり、海外に輸出されているという。日本で廃棄されたカーナビが中東辺りで軍用として転用されているケースなどもあるらしい。

　業者の帰った後、市の粗大ごみの手数料を調べたら、電子レンジは500円、ガスファンヒーター200円だった。(2020.9.13)