新型コロナウィルスに翻弄される人たち

 水曜日、ついに東京に週末の外出の自粛要請がでた。次の日、外出の自粛要請が首都圏に広がった。その日の夕方、妻は仕事を終えた後、夕飯の食材を買いに会社近くのスーパーに行った。スーパーはたいへんな混みようで、食品はほとんど売り切れており、レジの前には長蛇の列が出来ていたそうだ。妻は別のスーパーに行ったが、そこでも状況はあまり変わらなかった。残っていたホッケの開きが夕食となった。

 そんな話を聞いていたものだから、翌日、僕は昼休みに夕飯の食材を買いにスーパーへ行った。スーパーは平日の昼間とは思えない混みようだったが、まだ、時間が早かったため、食材は豊富に残っていた。ただ、豚肉のこま切れやスライスはほとんど売り切れていて、もし、仕事が終わってから行っていたら、ほとんど何も買えなかったかもしれない。レジの前には、長蛇とはいえないが、普段は見ることのできないような長い行列が出来ていた。しかも、客の多くは何故そんなに…と思えるくらいの量を買っている。特に60代くらいの女性客はそうだった。

 外出の自粛要請といっても、全く家から一歩も出てはならんというわけではない。不要不急の外出を控えてくださいというだけだ。食材をスーパーに買いに行くというのは、不要不急に含まれるものではないということくらい普通ならわかりそうなものだと思うのだけど…。

 小池知事の発表の仕方も悪かった。暗く深刻そうな表情で感染爆発とか、都市封鎖とか、不安を煽るようなことを言うというのはどうなのだろう。危機感を持たせる意図があったのかもしれないが、逆に不安に駆られた市民がスーパーに殺到し、感染リスクを高めてしまった。上に立つ者はまずは市民の不安を取り除き、不要不急の定義を具体的に説明した方がよかったと思う。

 外出の自粛要請を受けて、うちの会社でも普段営業している土曜日が臨時休業になった。それはまあいいとして、そのときに部長が「会社から感染者が出るといろいろと面倒臭いことになるから、感染しないように気を付けてください」といった。感染しないように気を付けてといわれても、どうしようもない。どんなに注意をしても、感染するときは感染してしまうものだ。

 このように従業員に圧力をかけるのは、間違っている。もし、風邪のような症状が出てコロナの疑われるような場合、それを隠して出勤する人の出る可能性がある。アメリカではこのため感染者が爆発的に増えているという指摘もある。もし感染が疑われるようなときはどうするかということを話し、感染したとしても心配はいらないということをいって従業員を安心させなくてはならない。

 ここ数日、朝の通勤時にドラッグストアの前には長い行列ができるようになった。恐らく、マスクを買うために朝一で駆け付けたのだろう。多くはコロナウィルスを予防するために購入をしているのだと思うけど、よく、テレビなどでもいわれているようにマスクには予防効果はほとんどない。マスクは病気にかかってしまった人が他人に感染させないため、付けるものである。

 よく聞く意見として、それでも電車などで近くにいる人が咳やくしゃみをした場合、マスクをつけていればその飛沫をある程度ブロックできるというものがある。しかし、思い起こしてみるとそのようなことを経験した記憶はないのである。また、仮にそういうことがあったとしても、ウィルスは鼻や口からだけではなく、目からも侵入するのでゴーグルなど目を保護するものを装着しなくては意味がなく、そもそも、マスクの目はウィルスに比べて粗すぎるため物理的にブロックすることはできない。ウィルスの大きさをテニスボールくらいだとすると、マスクの目は3メートル四方の大きさになるそうだ。

 会社内にもマスクに熱心な女性従業員がいる。今まではマスクを毛嫌いして、花粉症なのに付けていなかったが、会社からマスクを付けるようにという指示の出たとたん、マスク信奉者に転換してしまった。今まではイヤだったが、一度付けたら安心感が違うといいだし、熱心にマスクを探す毎日を送っているらしい。彼女の情報によるとドラッグストアよりも、コンビニがねらい目だそうである。しかし、僕にはどうしてもマスクに対してそこまでの情熱を持つことができない。

 マスクが簡単に手に入るならば、感染予防のために装着してもいいと思うが、今のように全く手に入らない状態だと、本当に必要な人に行き渡らなくなる可能性がある。それを思うと、健康な人は買い控えた方がいいように思う。

 外出の自粛要請の出た週末、首都圏の繁華街は何処も人出は少なかったようだ。しかし、自分には関係ないと遊びに出る人もいる。テレビのニュースではそれを自覚のない若者の嘆かわしい行動として放送していた。確かに褒められたことではないとは思うが、僕はそういう人のいることが健全な社会だという気がする。知事が外出自粛の要請をして、それをすべての市民が守る姿を想像すると、それはそれで恐ろしい気がする。ある一定程度は、いうことを聞かない人のいるのが自然な姿のように思えるのである。(2020.3.29)




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