スーパーのレジでの出来事

 成人の日、仕事を終えた後、職場近くのスーパーに夕食の食材を買いに行った。スーパーは、大変混雑していた。これは、成人の日に限らず、祭日はいつも混んでいる。もつ鍋を作るつもりだったので、白モツ、ニラ、キャベツ、もやし、もつ鍋のつゆなどを買い、レジに向かった。

 このスーパーのレジは少し変わっていて、全部で10のレジがあり、1番と2番、3番と4番という具合にふたつのレジが向かい合っている。このような場合、最近では一列に並ぶ形式が多く、先頭の人が左右どちらか空いたレジに誘導されるのだが、このスーパーではそれぞれのレジに並ぶようになっている。

 そのため、レジとレジとの間に人の列がふたつできることになる。なぜそうしているかというと、このスーパーはレジと商品棚の距離が近く、列をひとつにしてしまうと、商品棚のところに人の壁ができてしまい、買いづらくなってしまうからだと思う。

 レジには長蛇の列ができていた。平日だと多くても4、5人といったところだが、十数人並んでいた。いくつかレジの前にできている列をみて、5または6番レジが短そうだったのでそこに並ぼうとしたが、左右ふたつのレジの前は二列ではなく、一列になっていた。6番レジの真正面には商品棚があり、4、5人なら問題ないが、それが邪魔になって長い列を作るのは困難なためだ。僕も仕方なく、5番か6番かわからないが、その列に加わった。

 思ったより、列の進みは早く、左右ふたつのレジの見えるところまできた。すると、ほとんどの人が5番レジ側に並んでいて、6番レジの前には2、3人くらいしか人がいなかった。前にも書いたように、このスーパーは、二列に並ぶ形式になっているのだが、祭日ということもあり、いつもはこのスーパーを利用していない人が多いらしく、そういったことをよくわかっていないらしい。

 やっと商品棚の前から抜けることができたので、僕は迷わず空いている6番レジの方へ移動した。すると僕の前に5番レジと6番レジの真ん中に並んでいる女性がいた。どちらに並んでいるのかわからなかったので、僕は彼女の前に出ることはせず、床に表示されている6番レジの停止線で待っていた。 5番レジと6番レジはどちらも空きそうだったが、6番レジの方が早かった。すると僕の前に並んでいた女性は6番レジに向かった。しかし、レジ係の女性は彼女を制して、僕に手招きをした。一瞬どうしようかと迷った。先に並んでいたのは彼女だったからである。しかし、5番レジも空きそうだったので、僕は手招きに応じ6番レジで会計をしてもらった。

 このスーパーはレジでお金を払うのではなく、レジの後ろにある精算機で会計を済ませる方式で、僕が精算機にお金を入れていると先ほどの女性がつかつかとやってきて、「ちゃんと順番を守ってよ!」といった。僕が「いや、レジで呼ばれたから」というと黙ってそのままいってしまった。レジ係が女性を制したのは、女性が5番レジと6番レジの間に立っていたので、5番レジに並んでいたものと思ったからだ。このスーパーではそれぞれのレジの前に並ぶという形式なっているから、早く空いた方へ移動するのは、御法度というわけである。

 一方、女性はこのスーパーに慣れていなかったのかもしれない。前でも書いたが、最近ではそれぞれのレジの前に並ぶのではなく、一列に並んで先頭の人が空いたレジに誘導される形式が一般的になっている。そう考えると、女性が5番レジと6番レジの中間に立っていた理由もわかる。

 レジ係の人が僕を手招きしたときに、「この人の方が先に並んでいました」と順番を譲った方がよかったのかもしれないと後から思った。というもの、この女性は僕の二人前くらいに並んでいたような気がする。僕の直前に並んでいた人はそのまま5番レジに向かった。僕はレジで会計をしてもらい精算機にいってしまったから気づいていないが、ひょっとしたら5番レジの方でもひと悶着あったのかもしれない。

 日本人は行列好きだと海外からは揶揄されたりする。その一方できちんと行列に並んでいる日本人は秩序正しいと畏敬の目で見られたりもしている。行列は秩序そのものである。掟は単純明快、先に並んだものから順番に物を買ったり、食事にありつけたり、乗り物に乗れたりする。その中で最大の掟破りは、割り込みということになる。

 今の日本で行列に割り込む人はほとんどいないといっていいだろう。代表者が行列に並んでいて、そこに仲間が合流するという形式の割り込みはよくみかける。このようなときケースバイケースで許されたり、許されなかったりするが、基本的にはNGと考えた方がよさそうである。そしてもうひとつルールがあるとすれば、それはお店のルールに従うということである。

 今回、女性が腹を立てたのは、行列の後ろに並んでいた僕の方が先にレジで会計を済ませてしまったからだ。これは行列における最大の掟破りということになる。しかし、それぞれのレジの前に並んでくださいという、このスーパーのルールを守らなかったのはこの女性の方である。この場合、どういうことになるのであろうか?

 女性がこの店が初めてでレジに並ぶルールを知らなかったとしたら、やはり一声かけた方がよかったと思う。もし、ルールを知っていて、早く会計を済ませたいがために、どっちつかずの位置に並んでいたとしたら、レジ係の判断も僕の行動も間違ってはいなかったと思う。しかし、今となってはどちらとも知る由もない。(2019.1.27)




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