新居訪問

 昨年の秋、ケンちゃん一家が中古のマンションを買った。ケンちゃんの奥さんのエリカは妻の従妹で、また、ケンちゃんと僕は競馬という共通の趣味のあるため、親しくしている。ペルーでは、日本もそうかもしれないが、新居に移った場合、親戚や友人を招いてパーティを行うのだが、家がなかなか片付かなかったり、身内に不幸があったりして、お正月にズレ込んでしまったのである。

 元旦、僕と妻は豚肉のスペアリブの煮込みと付け合わせのジャガイモを持って、5時過ぎに家を出て、まずはエリカの妹のメグの家に向かった。メグは僕や妻と職場の同じため、一番付き合いの深い親戚である。ケンちゃんの新居の場所がわからないため、まずはメグの家にいき、みんな揃って出かけるという算段であった。本当はもっと早い時間にと思っていたのだが、持っていく料理に手間取ってしまったのである。

 メグの家に着いたときは、平塚に住んでいる妻の姉のカズエ一家も来ており、3家族揃って、2台の車に分乗してケンちゃんの新居に向かった。僕たちはメグの子供二人とタクシーに乗った。高校生の長男はスマホのゲームに夢中で自分の世界に入っていて、あまりあてにできず、次男の小学校2年生のユウスケのみが頼りであった。ユウスケに住所と目印になる建物を訊いて出発した。

 ケンちゃんの新居はメグの家から車で7〜8分くらいのところにある7階建てのクリーム色の外壁をした瀟洒なマンションだった。ケンちゃんの家は3階にあった。オートロック式でエントランスにある集合インターホンに部屋番号を入力して、ロックを解除してもらうのだが、部屋番号を知っているユウスケはうっかり自分の家の部屋番号を入力してしまい、慌てて正しい部屋番号を入れ直した。

 ケンちゃんの家は、築15年の3LDKなのだが、前のオーナーは50代の独身男性ということだった。50代独身男性と聞くとあまりきれいに部屋を使っていなかったのではないかと思いがちだが、その逆で一切リフォームをしていないとは思えないほどきれいだった。壁紙に汚れはなく、キッチンは15年間全く使っていなかったそうで新品そのものだった。

 普通だったら、どんなにきれいに使っても汚れの目立つ浴室やトイレなども目に付く汚れはなかった。浴室や洗面台の鏡もぴかぴかである。前のオーナーは出張が多かったというが、それだけでなく、掃除は専門の業者に任せることも多かったそうで、それだったらと納得した。室内のきれいさだけでなく、カーテンやエアコンなども残してくれたそうで、そのまま使っているという。

 また、ガンダムのファンということで、多くのプラモデルを作っていたそうだ。ケンちゃんもひとつもらったそうで、見せてもらったら、まだ組み立て前で箱に入った状態だった。映画鑑賞も趣味だったらしく、大きなテレビとオーディオ装置も充実していたという。「それもほしいな」といったら、「面白い人ですね」と返されてしまったと笑っていた。

 ケンちゃんは最近、競馬は全然ダメだそうだが、これだけいい物件に巡り合えたことを思えば納得するものがあった。恐らく運のほとんどを新居探しに使い果たし、競馬の分まで残っていなかったのだろう。

 家の間取りは、玄関を入ると短い廊下があり、その横にトイレがある。廊下の突き当りの扉を開けると約14畳のLDKがあり、そのまわりに和室1室と洋室2室がある。バルコニーは南と北にふたつあり、どちらも広い。収納もよく考えられていて、冷蔵庫がすっぽりと入るように計算されているスペースなどもあり、飛び出している家具は少ない。

 さて、いよいよ夕食である。妻の作ったスペアリブの煮込みにエリカの作った豚肉のロースト、ケンちゃんの義理の妹が中華街で買ってきた小籠包にゴマ団子、さらにチアシードやキヌアといったスーパーフードを使ったサラダ、メグが沖縄物産店で買ってきたサーターアンダギー、さらに付け合わせの多量のジャガイモなど食べきれないほどの量である。

 昨年は、何かとよくないことが起きた一年だったが、新しい年はいいことはなくても、とりあえず穏やかに過ごせる一年になってほしいとみんなの楽しそうな顔を見て思った。(2019.1.3)




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