足を痛める

 日曜日、運転免許更新のため、二俣川の運転免許試験場へ向かった。この日は暑かったので、サンダルをはいて行ったのだが、後から思うとこれがいけなかった。僕はゴールド免許なので、免許の更新は五年振りだったが、ロクに駅から運転免許試験場までの道順を確認しなかった。というのも、駅から一本道で行けたということを、何となく覚えていて、それが変な自信になっていた。

 簡単に説明すると、二俣川駅を出ると線路と平行に道路が走っていて、運転免許試験場はその道路と直角に交わる道を真っ直ぐに進むのだけど、僕は勘違いをしていて、線路沿いの道を行ってしまったのだった。20分くらい歩いたところで、さすがにおかしいなと思い始めた。普通に歩いても駅からは15分くらいの距離なのだ。

 しかし、記憶に残る風景、それは看板だったり、道の曲がり具合だったりしたのだが、それが何となく思いだされたことから、あ〜、やっぱりこの道でよかったと思ってしまった。恐らく似たものの勘違いだったり、他の記憶との混同だったりしたのだろう。歩いて行くうちに、線路が時折り並行に走っているのが見えたりして、何となくおかしいなとは感じていた。

 家の前を掃除していた女性がいたので、「運転免許試験場は、この道でいいでしょうか?」と訊くと、「試験場は、二俣川ですよ。ここは希望ヶ丘です」といわれた。希望ヶ丘は二俣川の一つ先の駅だ。仕方なく、元来た道を引き返した。引き返す道中、目に異変が起きた。左右の目の焦点がズレているのか、ものが二重に見えるようになった。

 目をぎゅっとつぶっても、しばらく経つと、またものが二重にみえてくる。このまま試験場へ行っても、視力検査で落ちるのは間違いない。免許の更新は後日にした方がよさそうだった。

 二俣川まで戻り、相鉄線に乗り家に帰ることにしたが、冷房にきいている電車に乗っていたら、目の状態は元に戻った。また、二俣川まで戻り、今度はバスで行こうとしたが、バス乗り場まで行くのに手間取り、バス停に着いたのは11時15分前だった。

 免許更新の午前中の受け付けは11時までで、しばらくバスを待っていたが、来る気配は無い。10分前になり、午前中は無理だなと思った。後は、食事などをして午後の更新の始まる13時まで何処かで時間を潰すか、日を改めて出直すかだ。僕は、後者の方を選んだ。自分の記憶への過信がそもそもの原因だが、今日は一日いいことがなかった、こんなときは、止めた方がいいと思った。

 電車に乗るため、改札に向かっている途中、歩くたびに右足に痛みを覚えるようになったが、このときは馴れないサンダルを履いてきたため、靴ずれができたものと軽く考えていた。家に帰り、昼食をとり、掃除をしたりしたが、時間が経つにつれ、右足の痛みは強くなっていった。

 椅子に腰かけていたり、寝転んだりしたり、また、立っているだけのときは、痛みは感じないのだけど、歩こうと思って右足のかかとに体重がかかると、激しい痛みを覚えるようになり、終には歩くことができなくなってしまった。これはもう、靴ずれではなく、明らかに足の何処かに炎症が起きている。しかし、一日寝れば、痛みは残るだろうが、歩けるくらいには回復するだろうと軽く考えていた。

 翌朝、足の状態は全く変わらなかった。とても歩ける状態ではなく、階段を下りる時は、階段に座って、一段一段お尻で降りて行った。移動するときは、四つん這いである。会社に行ける状態ではなく、休んだ。医者に行こうにも、一歩も歩けないのでは、どうしようもない。ただ、かかとに体重のかからない状態では、多少の違和感のあるだけで、痛みを感じることは無かった。

 翌日も、同じ状態で回復はみられず、会社を休み、一日中ふとんの中で過ごした。寝ていると痛みは無く、また、体調も悪くは無いので、ほとんどの時間は本を読んでいた。そして、読書に疲れると眠った。一見、気楽なようだが、内心はかなり落ち込んでいた。今月は夏休みをとったために、給料が少なくなるが、さらにこの病欠でお金が減ってしまう。そして、この足の痛みによって、もう歩くことができなくなるのではないかという漠然とした不安に苛まれた。

 水曜日、何とか数歩くらいなら、右足をついて歩けるようになった。しかし、会社へ行ける状態ではないので、三日目の欠勤となった。タクシーを呼び、近くの整形外科まで行った。医師の診断は、足底腱膜炎というもので、加齢により土踏まずのところの筋肉が硬くなったり、衰えたりすることで柔軟性が失われ、強い負荷がかかると痛みを発症するという。履きなれない底の硬いサンダルで、長時間歩いたことにより、炎症が起きたのだろうといわれた。薬とかはなく、足の負担を減らすサポーターを処方された。

 しかし、家に帰って来てから、踵の後ろの部分の腫れているのに気づいた。昨日までは、何でもなかった。医者からもらったサポーターは素足で歩くときは楽だが、スニーカーなどソールの入っている靴を履くときは、外さないと圧迫が強くなる。クリニックからずっと付けて帰って来たため、足が強い圧迫を受けてしまったのかもしれない。

 そして、医師の診断は、誤診だったのではないかという気がした。確かに足底腱膜炎になっていたのは間違いないと思われる。今までも朝起きたときに、足をつくと痛みが出て、しばらく歩いているうちに痛みを感じなくなることがあった。しかし、今回はかかとの後ろ側を押すと痛みがあり、また腫れていることから、その辺の部位に炎症の起きていることが考えられる。そして、調べていくとアキレス腱の滑液包炎がもっとも当てはまるような気がした。

 アキレス腱の滑液包というのは、かかとの部分にある液体で満たされた袋で、かかとの後ろの軟部組織を繰り返し圧迫するような歩き方をすると、この部分が炎症を起こすことがあるそうだ。履きなれないサンダルで長時間歩いたため、アキレス腱の滑液包が繰り返し圧迫され、炎症を起こしてしまったものと思われる。

 腫れが酷くなってきたので、冷蔵庫にあった保冷材で患部を冷やした。しばらく冷やしていると、痛みが緩和されてきて、多少なりとも踵をついて歩くことができるようになった。寝るときも保冷材を患部に巻いて寝た。翌朝、痛みはだいぶ引いた。まだ、満足に歩くことはできないが、四つん這いにならなくても済むくらいにはなった。厄介なのは、体重の一番かかる踵の炎症であるため、無理をすると再発する可能性が高い。そのため、今週いっぱい休むことにした。

 金曜日になると、家の中の移動くらいは、何とかできるようになった。踵をつくと痛いことは痛いのだが、がまんできないほどではなくなった。土日も含め、3日あれば何とか出勤できるくらいには、回復するように思われた。

 土日はできるだけ、患部に負担を与えないようにして、過ごした。何とか歩けるようにはなったが、階段を下りる時は階段に座りながら降りるようにし、二階に行くときは膝をついて一段一段上った。

 そして、月曜日、一週間ぶりに出勤した。もう、かなり回復したと思っていたが、実際に外を歩くと、まだ鈍い痛みを覚えた。完全に回復するには、まだ長い時間が必要のようだった。それにしても、サンダルを履いて長い時間歩いただけで、こんなことになるとは思ってもみなかった。履きなれないサンダルとはいっても、一昨年までは夏になるとこのサンダルで会社へ行ったりしていた。だけど、痛みを感じたことは無かった。やはり、年をとったということなのだろうか?(2018.10.27)




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