母の日

 母の日、妻と実家へ行くことになった。妻は、母へのプレゼントとして、大人の絵本と36色の色鉛筆、そして紫色の花(花の名前はわからなかった)を用意していた。当日は、僕がケーキを買い、妻は知り合いのペルー料理の店でローストチキンを買い、それぞれ実家に向かった。

 このように書くと大変な孝行息子のように思われるかもしれないが、実態は全く違う。ほとんど妻のおかげなのである。結婚前、母の日に母に何か贈り物をしたという記憶はあまりない。それこそ、子供の頃まで遡らなければならないくらいだったのである。感謝を感じていないというより、照れみたいなものがあり、何となく遣り過ごしていた。

 テレビなどで観る外国人家族は、そういった照れもなく、素直に自分の気持ちを表現している。妻もその例に漏れず、自分の気持ちを自然な形で表現できる。それに比べて、多くの日本人は、そういったことが下手だ。この違いは、一体どこから生まれるのだろうか?民族性なのか、教育なのか、それとも社会の有りようなのだろうか?とにかく、妻のおかげで、僕は大変助かっている。

 ペルー料理の店にローストチキンを取りに行った妻より早く僕の方が、実家に着いた。妻から託された花とケーキを母に渡した。母は数年前から血圧が高くなったとかで、薬を飲んでいるが、今は落ち着いているらしい。見た感じや声の張りなど、健康状態はいいようで、安心した。お互いに年を取ると、どうしても話題は健康のことになる。実家には、超音波マッサージ機があるので、それを借りて肩と腰のマッサージをした。

 しばらくして、夜勤明けの弟が二階から降りて来た。勤め始めてから約4年、一回の欠勤もなく会社へ通っているという。3年以上も働いていなかったことが、信じられない変わりようである。現在の職場が、彼に合っているということなのかもしれない。ただ、母に比べると、疲れた感じで、健康面で心配なところはある。不規則な勤務体系が影響しているのかもしれない。

 4時を過ぎた頃、妻がローストチキンを持ってやってきた。母に、プレゼントの色鉛筆と大人の塗り絵を渡した。母は、手作業が好きでパッチワークやビーズを使ったアクセサリーなどを作っているから、プレゼントとしてちょうどよかったかもしれない。

 夕食には、お寿司の出前を頼んだそうだが、その前にローストチキンを食べていようということになり、妻が用意した。アヒーというペルーの辛子をつけて、ポテトフライといっしょに食べた。近年、あまり肉を食べなくなっていた母だが、珍しくローストチキンの腿の部分を「ここが美味しいのよ」といって食べた。

 ほどなくお寿司の出前が届き、ワインを飲みながら食した。母の顔をみていると、時折り訪ねて、時間をいっしょに過ごすことが、一番の親孝行かもしれない気がした。(2018.5.26)




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