仕事始めの日、会社から家に帰ると、キッチンの食卓の上に‘水漏れの可能性があります’と印刷された水道局からのピンク色の用紙が置かれていた。検針時に、水道メーターパイロットが回っていたという。水道メーターパイロットというのは、僕も初めて知ったのだけど、水道メーターの中央部にある小さな銀色をした八角形のもので、家にある蛇口を全て閉めた状態でこれが回転していると、漏水の可能性があるそうだ。 外に出て、水道メーターをみると、パイロットは確かに回っている。外出していた妻が帰ってきたので事情を訊くと、水道の検針員が来たときに、いつもより水道料金が高く、パイロットが回っていたため、漏水の可能性が高いといわれたそうだ。検針票をみると、いつもに比べて、水道料金は2.5倍ほどになっていた。家の中の蛇口付近を調べてみたが、何処も漏れているところはなく、水道管からの漏水の可能性が高くなった。 もう一枚の用紙に市の指定修理業者のリストが載っていたので、時刻はすでに6時半を回っていたが、家から一番近い業者さんに電話をかけた。6、7回呼出音の鳴った後、中年の男性らしい人が出たが、声が聴きとりづらく、何をいったのかよくわからなかったが、とりあえず、事情を話すと、明日の朝一番で対応してもらえることになった。 翌朝、8時半に60代半ばくらいの作業服を着た男性がやってきた。いかにも町の水道屋さんといった風情である。白髪まじりの短髪にキャップをかぶり、目は意外と大きくクリクリとしていた。まず、パイロットの回っていることを確認した。「漏水個所を調べます」といって、棒のような器具を取りだした。音聴棒といって、これを水道管に当て、音を聴き、水漏れ個所を特定するのである。 まずは、玄関の近くにあるキッチンの蛇口の下にある水道と温水の管にそれぞれ棒の先端を当て、ヘッドフォンで音を聴き、次に洗面所、そしてお風呂場と同じ作業を繰り返し、「給湯器からの温水管の何処かで漏れているようです」といった。そして、外に出て給湯器のバルブを閉めると、水道メーターのパイロットが止まった。これは意外と早く、済みそうで午後から会社に行けるかなと思ったが、甘かったのである。 温水管は、給湯器からお風呂、洗面台と経由してキッチンまで来ている。その何処かで水漏れをしているのだが、管が銅管のため、音聴棒で聴いたときに音の変化がなく、場所の特定をするためには、目視しかないという。まずは、キッチンの床下収納のプラスチックケースを取り除き、懐中電灯を入れて、キッチン下を点検した、キッチンの管から漏れは無く、手を伸ばしバールのようなもので、周辺の土を削って調べたが、乾いており、漏水の痕跡はなかった。ただ、洗面所、浴室方面は、コンクリートの基礎があり見ることができなかった。 次に洗面所の横にある洗濯機をどかし、排水パーンを取り除いて、排水管を切断し、床下を確認した。すると、浴室に繋がる温水管の通るコンクリート付近から水が染み出していた。漏れているのは、明らかに浴室の床下からだった。ユニットバスの浴槽の側面を開け、ミラーを差し込んで、確認するとコンクリートに覆われた銅管と給湯器への分岐のところから、水が溢れていた。 「コンクリートに覆われた何処かで漏水していて、それが分岐のところに出て来ているのでしょう」と水道屋さんはいい、「どうしようかな?」と考え込んでしまった。「道具を取りに行ってきます。その間に、方法を考えます」といい彼は、店に戻っていった。 方法といっても、どうするのだろうと思った。水漏れ個所は浴室のシャワーの下あたりで、しかもコンクリートに覆われている銅管なのだ。浴室の床をはがし、コンクリートを壊さなければ、その部分に行きつくことはできない。 しばらくすると、水道屋さんが帰ってきて、「外にバイパスを作りましょう」といった。給湯器から新たな管を引き、そこから浴室に給湯するための管を差し、さらに外に回して、洗面台のところで従来の温水管と繋げば、キッチンまでお湯が行くことになる。温水管の一部を露出管にするのである。 まず、洗濯機の排水管のところの温水管を切断し、外から基礎に穴を開け、新たな管が差し込まれ、洗面台の下に向かう温水管と繋がれた。次に浴室の外壁に穴を開け、新たな管を差し込み、浴槽の下を走っていた温水管を切断し、それと繋ぎ合わせた。後は、浴室と洗面台横のところから外に出した管をそれぞれT字とL字の接合機で新たな温水管に繋いで、バイパスは完了した。このように書くと、簡単に済んでしまったように思われるかもしれないが、実際の作業は片手しか入らないような狭い場所で行わなければならず、困難を極めていたのである。時刻は、12時20分になっていて、水道屋さんは昼食を取って来ますと、自宅へ戻っていった。 2時少し前に戻ってきて、まずはお湯が出るかどうかの検査をした。浴室の浴槽、カランそしてシャワー、洗面台、そしてキッチンと問題なく温水が出た。次は、新しい配管を保護する作業をした。配管をウレタンのようなもので包み、さらにテープを巻き付けていくのである。場所が狭いだけでなく、この日は大変寒く、思うように手が動いてくれないようだった。 「今日が仕事始めでね。道具を探すのに時間くっちゃって」と水道屋さんは苦笑いしていた。配管の保護が終わると、開けた浴槽のカバーの取り付け、さらに切断した洗濯機の排水管を繋ぎ合わせ、排水パーンを取り付け直し、洗濯機を元に戻した。ちゃんと排水できるかどうか、洗濯機を動かして確認した後、外の部分の配管の保護して、すべての作業を終えたときは、もう4時近くになっていた。 「修繕工事届出書はこちらで郵送しておきます」と水道屋さんが言った。修繕工事届書というのは、漏水があった場合、水道料金の一部が減額できる制度があり、その申請に必要な書類なのである。「あの、料金はいくらでしょう。近いので、これから銀行に行って下ろして来て、お宅までお持ちしますが」というと、「だいたい3万円くらいですが、急がなくていいです。請求書をポストに入れておきます」といい、飄々と帰って行ってしまった。 それにしても、一度、漏水ということになると、基礎に穴をあけたり、地面を掘ったり、床下に潜ったりと大変なことになる。最近の家は万が一のときメンテナンスし易くなっているのだろうか、水道屋さんに訊いてみたら、「マンションはよくなっているけど、普通の一戸建ては昔と変りません」ということだった。最も、水道管より、家の方が先に寿命が来てしまうことが多いという。 漏水になったとき、どのような業者に頼めばいいのだろう?知り合いがいれば、その人がベストということになるのだろうが、そういう人は少ないと思う。ネットで調べても、時間がかかってしまう。やはり、一番安心なのは、近所の腕のいい水道屋さん、所謂、町の水道屋さんということになるのではないだろうか。法外な値段を吹っかけたり、必要のない工事をしたりなどいうことをすれば、口コミで広がり、その地域で商売は成り立たなくなる。 漏水は直り、金額も良心的だったし、家から一番近い水道屋さんに依頼してよかったと思った。(2018.1.7) |