バイクを売る

 15年近く乗っていたバイクを売ることにした。昨年、家を買うことに全力を尽くしていたこともあり、一度もバイクに乗ることが出来なかった。妻と結婚してから、バイクでツーリングに行くということはなくなり、この先、持っていたとしても、バッテリーを上がらせないため、たまに乗るくらいだろうし、それなら税金や保険などもかかるし、処分した方がいいと思った。

 走行距離は2万キロを越え、さらに1年半くらいエンジンをかけていないため、バッテリーは上がって、バイクは動かなくなっていた。ネットでみると無料で回収してくれる業者もあり、値がつくようには思えなかったので、依頼しようと思ったのだけど、ダメもとで買い取り業者に査定してもらうことにした。

 買い取り業者は、レッドバロンやバイク王といった大手から、やや怪しげな業者まで、ネットで検索すると、かなりの数あった。何処に依頼するか迷ったが、製造からは20年近く経っていること、走行距離が2万キロを超えていること、ダートでこけたキズのあること、そして動かないことを考慮して、「動かないバイク、事故車、書類のないバイクも買い取ります」と広告している名前の聞いたことのない業者に査定してもらうことにした。大手では値がつかない気がしたのである。

 業者に電話をかけようとして、その番号をみると080から始まる携帯電話だった。代表の電話番号が携帯ということに不安を覚えたが、かけてみた。すると、呼出音だか、保留中のものかはわからないが、激しいラップの音楽のワンフレーズが繰り返し流れて来た。しばらく待ったが、一向に誰もでないので、これはまずいのではないかと思い電話を切ると、すぐに折り返しで、そこから電話がかかってきた。

 乗らなくなったバイクの買い取りの査定をお願いしたい旨を伝え、バイクの車種や状態、年式などの質問に答えていたが、相手はこちらの住所は訊いたのに、名前を訊こうとせずに電話を切ろうとして、慌ててこちらから名前を伝えた。対応の不慣れさにも、不安が残り、これだったら大手の方がよかったのではないかと思ったりした。

 そして、当日、バイクの置いてある弟の家にいった。ちょうど夜勤明けで帰って来た弟と玄関の前でいっしょになった。弟にとっても、半地下の駐車場に置かれたままになっているバイクは邪魔な存在だったに違いなかった。弟は、家に入ると朝食とも昼食ともいえる食事を取り、寝るのかと思っていたら、競馬中継を観だした。そして、十二時半くらいに、何処かに出掛けて行った。母によると、夜勤明けのときはいつも眠らず、家に帰ってきて食事を取り、遊びに行くという。

 バイクの買い取り業者は、軽トラに乗り、約束の時間より、早くやってきた。30代後半くらいの男性二人で、一人は短髪の小太り、もう一人はキャップをかぶったひょろ長い人だった。キャップの方が、僕にいろいろと質問をし、短髪の方はパソコンに何かを入力し、懐中電灯なども取り出し、バイクの状態を念入りに調べていた。

 そのうち、キャップが席を外し、短髪が「今、全国のオークションを調べています。もうひとりの方はセンターに連絡しています」といった。しかし、なかなか難しいようで、時間だけが過ぎていった。「タンク周りなどは綺麗なのですが、走行距離が2万キロで、年数も経っていますから、こういうところが割れていたりするんですよね」といって、エンジンの上部を指示したりした。そして、「もうしばらく時間がかかるので、家の中で待っていてください」といった。

 しばらくして、チャイムがなり、外に出るとふたりが揃ってバイクの近くに立っていた。そして、いろいろと説明を始めたが、口が重く、なかなか買い取り金額が提示されなかった。やはり、値がつかないのかと思っていたら、「なかなか値段をつけるのは難しいのですが、部品などバラせば、リサイクルできますし、3万円でどうですか?」といってきた。タダでもいいと思っていたくらいだったので、「それで十分です」と答え、交渉は成立した。

 キャップは動かないバイクを押して、軽トラの荷台に乗せた。その光景を見ていたら、寂しい気持ちになった。ドナドナ気分である。小太りは、「剥き身で悪いですけど」といい、財布から3万円を出して、僕に渡した。その後、買い取り契約書に、サインして、すべては完了した。(2017.4.23バイクを売る)




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