ランチタイム

 営業部に配置転換になってから、昼食は外でとることが多くなった。とはいっても、何処かの店でというわけではなく、弁当を買い適当な場所で食べている。始めは弁当を買い、会社に持ち帰って食べていたのだけど、営業部という性質柄、昼でも電話が頻繁にかかってくるため、落ち着けないのである。僕は、営業部といっても、発送作業専門なので、そういった電話に出る必要はないのだが、周りが仕事モードだと、休んだ気にならないので、静かでゆっくりしたランチタイムを送りたいため、外に出るようになった。

 会社の近くに中国人のやっている中華屋があり、弁当が安くて美味しいので、買ってから、コンサートホールのあるビルのプロムナードのベンチで食べている。ここは、一応屋根があり、雨はしのげるのだが、ベンチに面した横の部分には壁がなく、吹き抜けになっていて、南風の強い日は、そこから雨が吹き込んでくるため、使えない。また、屋根があるというだけで、外であることには変わりないので、気温は外気と全く同じで、曇っていて底冷えのする日は、大変辛い。冬でも、陽が出ていれば、低い陽の光が差し込んでくれるので、暖かく気持ちいいだが、そんな日ばかりではない。曇っていて、北風の強い日などは最悪である。それでも、他に行く所もないので、弁当をそこで食べているのだけど、そんな辛い状況でもお仲間がいるのである。

 コンサートホールの入っているビルは、1〜2階には商業施設が入っているのだが、さらに上階は、オフィスになっていて、多くの会社が入居している。それらの会社のサラリーマンが、弁当片手に降りてくる。陽が出て、ポカポカ陽気の日はベンチの埋まるくらい人が集まってくるが、太陽が雲で覆われ底冷えのする日でも、どういう事情かはわからないが来る人が数人いる。会社の中で、よほど窮屈な思いをしているのかもしれない。さらに、ホームレスと思われるような人は、片隅に陣取り、時を過ごしている。

 ここは、いつの頃からか長時間の滞在禁止となっている。長時間とは、どのくらいの時間を指すのかわからないが、長いベンチの真ん中に肘掛を付けて、横になれないようにしている。これは、以前はなかったものだ。また、ビルの一階のスペースにも、ベンチがあるのだけど、ここは飲食禁止で、やはり長時間の滞在を禁止している。昼食をとった後、寒いものだから、ここで暖をとっていることが多いのだけど、居眠りをしていたら、警備員に「居眠りはご遠慮ください」と注意されたことがある。居眠りは長時間の滞在に繋がるというわけだ。ただ、注意してくるのは、若い警備員で、古参の警備員はほとんどの人が黙認しているようである。ここのベンチは円形で、以前は不自然な肘掛が所々に設けられていたが、さすがに使い勝手が悪いと苦情がでたのだろう、現在は全て撤去されている。

 外で昼食をとるようになってから、天気には敏感になった。多少、風があっても、気温が低くても、太陽が出て、陽が差していれば、それほど辛くはない。曇っていて寒くても、風がなければ、何とか耐えられるが、北風が強い日は、身を縮めて弁当を食べることになる。太陽の力というものを、ありがたさというものを、ひしひしと感じるようになった。人間は自然の左右されないように、いろいろな文明の利器を発明してきたが、それによって、自然の恩恵や厳しさといったものから遠ざかってしまった。ラインチタイムを外で過ごすことにより、多少なりとも、そういったものを体感するようになったのは、収穫といえるかもしれないなどと、強がって思うのである。(2017.1.22)




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