相次ぐ葬儀

 今まで何人のお葬式に出ただろうか?父方の祖父、母方の祖父、祖母、叔父…そして父と数えると、七〜八人というところだろうか?この数字が世間的に多いのか、少ないのかわからないが、ここ一週間でたて続けに、二人の葬儀に出席することになった。これは、明らかに多いだろう。葬儀のハシゴは、本当に勘弁してもらいたいと思う。

 先週の火曜日、妻の義理の伯母の夫アルバロが、亡くなった。享年62歳だった。彼は約一年前、脳梗塞を起こし、入院した。病はそれだけでなく、免疫細胞が赤血球や白血球を食べてしまうという血球貪食症候群にも犯されていた。今年に入ってから危ない状態が続いており、妻が見舞いに行った時には、何も話せず、何処を見ているかもわからない状態だったそうである。

 さらに、どういうわけだか、彼が亡くなったというニセの情報が、二回も流れたため、三回目の死亡情報もはじめは疑われたが、今度は本当だった。どうも、彼の妻が「もうそろそろ危ないから、亡くなる前にアイバロの顔を見に来て」と電話したところ、何処でどう屈折したのか、「亡くなったから、顔を見に来て」となってしまったらしい。アイバロの葬儀はミサという形で、教会で行われた。

 葬儀を行った教会は、路上で亡くなったホームレスの葬儀なども取り行っているところで、アイバロの葬儀もボランティアの人たちが、会場の飾り付けをしたり、参列者のための料理を作ったりと大活躍してくれたそうである。葬儀ミサと告別式での牧師さんの言葉は、心に残った。この言葉通りの世の中になったら、隣人同士の争いなどもなくなり、素晴らしい世界になることだろうと思った。

 一番、心に残ったのは、遺族代表で挨拶したアイバロの妻ケイコの話である。アイバロは享年62歳だった。あと三年経って65歳で定年になったら、ペルーに帰ろうと話していたそうである。ふたりはペルーにも家を持っている、海側の都市にあるそうだが、それを売って、内陸の田舎町に家を買い、のんびりと暮らす予定を立てていたそうである。アイバロは、一年半前にペルーに一時帰国し、持ち家を売るための、準備をしていたそうであるが、その途中で病に捕まってしまったという。「私の恋人、先に逝っちゃった」とケイコは友人に話していた。

 ミサの終わった後、別の会場に用意された料理を立食形式でいただいた。お寿司にピザ、鶏のから揚げ、アスパラとトマトのサラダ、ペルー料理であるパパラワンカイーナと豊富で、飲み物は赤ワインまであった。

 アイバロの葬儀の行われた夜、今度は妻の‘はとこ’に当たるミユキが息をひきとったのである。ミユキは、享年46歳、ペルーレストランを経営していた。数年前から、ガンと闘っており、二年前くらいにミユキの経営するレストランに食事に行き、会ったときは、まだ、ふっくらとしていて血色もよく、ガンに侵されているようには見えず、治療がうまくいっているものだとばかり思っていた。しかし、僕もその一人だが、ミユキのガンの治療法を危惧するもいた。

 ミユキは手術と抗がん剤による治療を拒絶し、免疫療法を行っていた。どういう理由で、ミユキが手術、そして、抗がん剤やX線による治療を選ばなかったのかは、わからない。アイバロの妻ケイコなどは、「このままでは、死ぬよ」と直接的に忠告していたそうである。しかし、ミユキは免疫療法による治療を続けた。彼女自身、自分が死ぬとは思っていなかったようである。しかし、昨年の秋に入院、60Kg以上あった体重は38Kgまで減少、交友関係の広かった彼女のもとには連日多くの見舞客が訪れていたが、亡くなる一週間くらい前に、お見舞いにくる人が重なり、対応に疲れた彼女はみんながいなくなってから「私、死ぬのかしら」と家族にいったそうである。

 アイバロの葬儀の三日後の水曜日、今度はミユキの葬儀が執り行われた。ミユキの葬儀もキリスト教徒だったため、ミサという形式で行われた。ミユキはペルーレストランを経営し、交友関係も広かったため、非常の多くの参列者があり、礼拝堂の壁際には座れなかった列席者が並んでいた。最前列には、ミユキの両親と三人の兄弟、そして二人の子供が座っていた。ミユキの長男はすでに社会人となっているが、下の長女はまだ十九歳の大学生である。ミユキの母は、落胆というより、放心しているような雰囲気だった。子供にとって最大の親不幸は、親より先に死ぬことである。そして、親にとって一番辛いことは、子供に死なれることである。ミユキの場合、ガンの治療法が違っていたら、亡くなっていなかったかもしれず、娘を救えなかった親の辛さ、哀しさが特に母親に漂っていた。

 亡くなる直前、ミユキの目から一粒の涙が流れたそうである。長男のケビンには、この世を去るにあたり、お世話になった人たちへの感謝の涙に思えたという。(2016.2.14)




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