ずっと腰に違和感を覚えていた。特に朝の通勤時、家から出て駅まで行く途中、「あれ、おかしいな」という感じを持つことが数回あった。しかし、歩いて体が温まってくると不思議と違和感はなくなっていたので、それほど気にはならなかった。 十二月初旬の土曜日、馬券を買いに競馬場まで行く途中、銀行に寄るため、やや遠回りをした。家に帰ってからは、部屋の掃除をしたり、夕食を作ったりと全くいつも通りで、一晩寝た日曜日の朝からおかしくなった。腰が痛み、ふとんを押し入れに入れるのもやっとという状態だった。寝ている間に、腰がおかしくなったらしいが、激痛が走るとかそういった自覚できるような症状はなく、状況を把握できなかった。 ふとんを上げるのは何とかできたが、部屋の掃除もやっとという感じで、時間の経過と共に腰の状態は悪化の一途を辿った。しかし、一晩寝れば治るだろうと軽く考えていた。床に入り、深夜、尿意を覚えトイレに行ったが、何かに捕まらないと立てないくらいに腰の痛さは増していた。トイレから帰ってきて、再び床につこうと体を屈めたとき、腰に激痛が走り、四つん這いになったまま、全く動けない状態になってしまった。 すやすやと眠っている妻を起こし、手伝ってもらって何とか横になれたが、少しでも体の向きを変えようとすると激痛が走るため、寝返りを打つこともできなくなっていた。体を起こすときはできるだけゆっくりと、何か支えになるようなものに捕まりながら、そろそろとしなくてはならないが、それでもちょっとしたはずみに、激痛が走るのでとても厄介なのである。 ぎっくり腰、正式には急性腰痛症、海外では‘魔女の一撃’と呼ばれているらしいが、発症するメカニズムは、はっきりとわかっていないらしい。考えられる原因として、疲労の蓄積あるという。そういえば、ここのところ、会社に多くの荷物が届いており、重い物を持つ機会がいつもの倍くらいに増えていた。 一日目は、立ちあがるのもやっとという状態で、会社を休んでほとんど一日中寝ていた。夕食のとき、椅子にずっと座っているのも辛かった。二日目は、多少は良くなかったが、まだ、ちょっとしたことで痛みが走り、少し立っていると、太ももの方まで痛みが拡散してきた。あまり、会社を休みたくはなかったが、とても働けるような状態ではないので、二日目も休むことにした。 二日目の夜くらいから、症状は急速に良くなり、三日目から会社に行くことができるようになった。二日目にして、これほど劇的に回復したのは、記憶がない。しかし、会社で作業をしているうちに、鈍い痛みが腰の真ん中辺りに感じられるようになった。仕事はちょうど繁忙期で、一番忙しい時期だったのである。 二日、三日と出勤しているうちに、徐々に腰の具合はおかしくなっていった。鈍い痛みは取れなくなり、右の太ももの辺りにも時折り、嫌な痛みが走るようになった。腰痛を慢性化させないため、家に帰ってからは、できるだけ体を休めることにした。 夕食を取り、風呂に入った後、いつもだったらテレビを観たり、パソコンをしたりするのだけど、できるだけすぐ床に着くようにした。早いときは十時くらいにふとんに入ったこともあった。 それが、よかったのか、危ない綱渡りのような状態が続いたが、なんとか今まで再発しないで済んでいる。正月休みにはいってからは、家の掃除をしているときに、少し痛みが出たが、仕事をしている時に比べれば、ゆっくりできているので、だいぶ回復したように思う。しかし、体を労らなくてはいけない年齢になったのかと思うと、寂しい気がした。(2016.1.4) |