弘明寺夜桜見物

 日曜日、雨という天気予報だったものだから、土曜日の夜、仕事終わりの妻と待ち合わせ、夜桜見物にいった。初めは自宅に比較的近い三ッ池公園にしようかと思っていたのだけど、今まで行ったことのないところの方が面白く、刺激になりそうだったので、これも桜の名所である弘明寺にすることにした。

 六時にK駅で妻と待ち合わせ、京急線弘明寺駅で下車した。‘ぐみょうじ’というのは、ペルー人の妻にとって難しい発音らしく‘ごみょうじ’と覚えてしまい、ずっと‘ごみょうじ’といっていたらしいが、僕がそれに気づかず、直さなかったため、文句を言われた。以前もシマウマのことを、シカウマといっていたのを、何となく言っていることがわかるものだから、特に注意しなかったら、後で「間違えて覚えてしまうと、恥をかくから、ちゃんと直して」といわれていたのだった。

 弘明寺に着いたときには、すっかり陽は暮れて、辺りは暗くなっていた。電車から降りると、焼き鳥のいい匂いがしてきて、食慾を刺激した。駅から続く下り坂ではすでに桜見物を終えたらしい人たちが、こちらに向かって楽しげに歩いてくる。この坂道は、個性的な店が並び、とても魅力的だった。

 駅を降りるとすぐに今川焼きとたこ焼きの店があり、その隣に焼鳥屋があった。さらに少し下っていくと、季節料理の店があり、昭和の民家を改築したような懐かしい雰囲気の立ち飲み屋があり、お腹の空いていた僕たちはあっちへふらふら、こっちへふらふらという感じだった。

 坂を下り終えたところの右手に石段があり、それを上っていくと弘明寺らしいが、、帰りに寄ることにした。とにかく、桜である。弘明寺の石段を過ぎると、今度はアーケードの付いた商店街が現われる。ここにも中華、ハンバーグ、ホルモン焼きなどの店が並び、お腹の減った僕たちを責めるのである。このアーケード街の中程に橋あり、大岡川の流れがある。橋の上には缶ビールやたこ焼きなどを持った人たちが陣取り、川の両岸の桜を楽しんでいた。桜は川面の方に枝垂れているものが多く、ここは特等席である。

 僕たちは間近に桜を観ようと、川沿いの道に入った。ここは、プロムナードになっていて、多くの人たちがちょっとした隙間にシートを広げ、花見をしていた。屋台も数多く出ていて、桜のライトアップもされていたが、まだ五分咲きといったところだろう。妻は僕がお腹が減ると、不機嫌になることを知っているので、屋台でたこ焼きを買い、川岸へ降りる階段の途中で食べた。ひとつひとつは大きかったが、やや粉っぽくて、タコも固く、まあまあの味だった。

 たこ焼きを食べ終えた後、川岸を歩いた。枝垂れている桜の枝が真上に見え、五分咲きとはいえ、やはり桜はいいなあと思った。川には反対側に渡れる飛び石もあったが、反対側には桜はあまりなく、また、暗くて危ない気もしたので渡らず、元来た道を引き返した。

 だんだんと寒くなり、手もかじかんで来たので、夕食を取るため商店街に戻り、店をを見て回った。ラーメン屋が多いが、夕食なのでしっかりと食べたい気分だったので、ハンバーグにしようかと秘かに思っていたのだけど、満席だったので、駅に戻りながら探すことにした。

 アーケードを抜けると、弘明寺の石段があり、一応、お参りすることにした。夜とはいえ、ちらほらとお参りしている人が見受けられた。それほど広くない境内は、夜ということもあり静謐な雰囲気だった。梵鐘や七つ石など見どころもあり、高台にあるので、見晴らしもいい。本堂の右側に階段があったので降りて行くと、駅から繋がる坂道の途中に出た。こちらから入れば、長い石段を登らなくても済む。

 駅に向かうと、昭和の民家を偲ばせる立ち飲み屋は、二階まで客でいっぱいになっていた。適当な食事処は見つからず、結局、家の近くにあるファミリーレストランで食事をすることにした。駅前のたこ焼きと今川焼きの店で、今川焼きをあんこ入り二個とクリーム入り一個、買った。

 「三百万円になります」とおやじさん。妻が千円出すと、「一億円預かりました。七千万円のおつりです」とまた、おやじさん。七百円のおつりをもらった妻は、「お金持ちの気分になった」と喜んだ。(2015.4.1)




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