It's a small world

 同じ部署に勤めている同い年のパートの女性が脳梗塞で入院した。数週間前から、頭が痛いとか、手がしびれるとか、体調の悪さを訴えていて、お医者にも行っていたのだけど、一向によくならず、他のお医者にいったところ、MRIにより脳梗塞であることがわかり、即、入院ということになったそうである。

 この女性は、社員のNさんのセクハラを訴えたRさんなのである。Rさんは、今年の春の健康診断でも特に問題のなかっただけに、かなりショックを受けたらしい。セクハラ問題が、相当のストレスになっていたようで、彼女が体調の不調を訴え出したのは、Nさんを告発した後あたりからだった。彼女の行った行為は全く正しいものだったが、他人の悪事を明らかにするというのは、葛藤があっただろうし、気に病むことだったと思う。ストレスから逃れるように、最近は夜遅くまでスマホのゲームに熱中していたようで、それも影響したのかもしれない。

 妻と友人が病院にお見舞いに行くと、会社がどうなっているか、とても気にしていたということだった。会社のことなどさっぱり忘れて、治療に専念すればいいのにと思うのだけど、本人にとっては一番の関心事なのだろう。

 会社から自転車で15分程の所に住んでいる彼女の日常は家と会社の往復だけになっていたようである。彼女との会話で話題となるのは、ほとんど仕事のことで、その傾向は最近になってますます強くなっていた。自然と彼女の心の中で、会社が増大していったように思う。

 会社というのはとても小さな世界である。そのため、わずかなことが、とんでもないストレスになったりする。どうでもいいようなことを、後生大事にしていたりして、そんな世界にどっぷり浸かっていると、感覚がおかしくなってくる。彼女もそんな村社会の息苦しさに耐えきれなくなり、心と体が悲鳴を上げてしまった。

 その危うさから逃れるためには、より大きな世界を感じるようにすればいい。旅に出るのもいいだろうし、もっと手軽に映画を観に行ったり、或いは本を読んだり、音楽を聴いたりすることによっても世界は広がる。帰宅時に、途中下車して、知らない街を歩くなんていうのもいいと思う。とにかく日常の無限ループから、一歩でも半歩でも踏み出すことである。

 心配されたRさんだったが、約三週間で会社に復帰した。右足の温度や痛みを感じる神経がダメになってしまい、それは一生治らないと医師からいわれたという。熱さや痛みを感じなくなってしまったため、「これからお風呂に入るときは、左足から入るクセをつけないといけない」といって、彼女は破顔した。(2014.10.31)




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