庭のヒキガエルとの再会

 夜といっても、そんなに遅い時刻ではなく、八時くらいだったと思う。庭に置いてある鉢植えのクチナシの花が咲いたと妻がいうので、見に行った。玄関を出て、庭の方に向かうと何か動物が、僕の足元から手洗い場の下辺り逃げ込む音がしてびっくりした。始めは最近、たまに庭を徘徊している猫かと思ったが、それにしては小さすぎるような感じがした。或いはネズミかもしれないと思った。

 しばらく、様子を覗っていたが、何の物音もしないので、手洗い場の蛇口から水をじょうろに入れ、その辺りの草の生えているところにかけると、ガサガサとまた何かの動く音がした。ネズミだったら、イヤだなと思ったが、ネズミにしてはあまりにも俊敏性のないような気がした。僕が玄関から出てきたのに驚いて逃げたにもかかわらず、まだ、すぐ近くでぐずぐずしているというのは、ネズミではありえないことである。そういえば、昨年の春、引っ越してきたばかりの頃、ヒキガエルをよく庭で見かけたことを思い出した。

 去年の六月くらいまでは夜になるとよく見かけたが、それ以降は全く姿を見ることはなかった。通勤のとき、道で車に轢かれて死んでいるヒキガエルを二匹ほど見かけたことがあった。ヒキガエルは交尾の時期になると、交尾場所となる池まで移動するという。ひょっとしたら、ウチの庭のヒキガエルが交尾するため池に向かう途中に轢かれてしまったのかもしれないと思った。その後、姿をまったく見なくなったので、その想像が僕の中でいつの間にか確定していた。

 以前に書いたが、ヒキガエルは相当な怠け者である。一回の採食に出てくる時間はわずか三時間ほどで、その後は石の下や草陰に入って休み、ときには二十日間も出てこないこともあるらしい。そして、一年間で採食にかける時間は、二十四時間から七十二時間という。全くもって、うらやましい限りだ。一年間の労働時間がわずか七十二時間というのだから、次に生まれ変わるのなら、ヒキガエルになりたいくらいである。

 そんなヒキガエルだが、音を聞いてから、ほぼ毎晩、庭に出てくるようになった。始めは庭の雑草の中をガザゴソと動く音だけだったが、先日、やっとその姿を確認することができた。怠け者のヒキガエルにしては、ずいぶんとがんばっている。しかし、心配はやはりエサである。庭にはそれほどたくさん虫がいるとも思えない。僕の無精のせいで、ウチの庭は雑草が生い茂っているけど、その周囲といえばコンクリートに覆われているし、住宅街の小さな小さな自然でしかない。だけど、また姿を見せてくれたというのは、何とか一匹くらいなら、生きていけるだけの食糧はあるのだろう。とにかく、庭のヒキガエルが無事であってほっとした。(2014.6.7)




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