僕自身、会社で徳俵に両足のかかっている状態なのだけど、どういうわけだか、最近になって三人の人たちが突然辞めてしまった。三人には共通点があって、まず、出社しなくなり、フェードアウトするように知らぬ間にいなくなった。 一人目は三十代の女性社員で昨年の十一月中旬辺りから会社に出社しなくなった。彼女は以前にも同じようなことがあり、その後、復帰したのだけど、今度はダメだったようである。誰もいない暗い会議室で、ひとりでぼんやりとしている彼女を何回か見かけたことがあった。出社しなくなる前に、同僚に社内で使っている自分用の携帯電話を渡していたというから、始めから辞める覚悟だったのかもしれない。出社しなくなった理由は仕事上のストレスではないかということだった。 二人目は、三十代半ばの男性のパートである。彼は二月に入ってから、姿を見せなくなり、最近になって辞めたという話を聞いた。一月に行われた新年会の席で同世代の社員の男性と取っ組合いケンカになり、周りが止めたそうである。会社に来なくなることは以前からあったらしく、周りは「またおかしくなった」と噂をしていた。辞めた後、同じフロアの女性のパートさんにストーカーまがいの行為をしていたという話がでてきた。 三人目は、同じ部署で働いていた三十代半ばの男性社員である。彼は三人の中では、僕ともっとも交流のあった人物で、二月の第二週から、会社に来なくなってしまった。最初に欠勤した日、「熱が38度出たので休みます」と上司にメールが来た。しかし、その後、連絡がなくなり、三日後、今度は彼の母親から会社に「具合が悪いので休ませてください」と電話があったという。 彼は昨年の十一月に結婚したばかりなのに、何で母親から…という疑問があったが、体調が悪くて実家に帰っているのかもしれないということになっていた。この頃までは、インフルエンザにでもかかったのだろうと、みんな思っていた。しかし、その後、連絡はなくなり、欠勤して十日目くらいに、「腰が痛くて、足もしびれて歩けないのでお休みします」とメールが上司に入った。 心配になった上司が電話すると「腰が悪くて今までの仕事を続けるのは無理なので、他の部署に移動したい」といったそうである。いきなりの話に上司は「考えておく」といったそうだが、同じ部署で働く女性パートさんに彼から「次に出社したときは、違う部署で働くことになりました」とメールが来た。びっくりした女性はそのメールを上司に見せ、普通ではないことを感じた上司は常務にそれまでの経過を報告したため、一気に問題になった。 その数日後、「今日、MRIを撮りに行くので、月曜日から出社します」というメールが彼から入ったが、その月曜日から一週間無断欠勤を続けたため、解雇ということになってしまった。 仕事上のストレス、同僚へのストーカー、家庭の問題、それぞれ会社を辞めてしまった理由はいろいろと推測されたが、本当のところはわからない。出てくる話は常に一方からのものだからである。三人に対しての反応は当然といえば当然なのかもしれないが、冷淡なものが多かった。だけど、会社という組織、そこにどっぷりと浸かっている人間の醜さをみてしまった後では、案外、彼らの方が正常なのかもしれないという気がした。 それにしても、会社を辞める手段として、このバックレ型が意外に多いような気がする。会社を辞めるときは通常、口頭で退職したい旨を伝え、その後、話し合いで時期を決めるものだと思うが、そうした‘余裕’さえないということなのだろうか?という僕も、過去二回、バックレ型退職をしているので、偉そうなことはいえない。その二回に共通するのは、とにかく精神的に辛かったということである。辛くて、行こうとは思うのだけど、行けなくなってしまった。 ただ、僕は行けなくなったら、無理に行かない方がいいように思う。とにかくゆっくりと心身を休めて、回復を待つ方がいい。回復した後、その後のことを考えても決して遅くはないし、自身の経験からも自分にとって最善の結論が出ると思う。 (2014.3.1) |