職場環境改善騒動顛末 前編

 発端は、機械のメンテナンスにきていたサービスマンのひと言だったかもしれない。現在、僕が作業で使っている機械はUVランプとニスを使用している。その機械の部品を換えるためサービスマンが来ていた。以前に同じ部品を換えたところ、すぐに不具合が見つかり、社員のNさんは頭に来ていたようで、作業中のサービスマンに文句を言い続け、それは、やや常軌を逸していた。

 Nさんのいなくなった後、僕は作業を見ながら、機械のことをいろいろと質問した。罵倒された直後だったので、サービスマンは僕にいい印象を持ったようで、「機械を使っていないときは、UVランプを小まめに切っておいた方がいいですよ。オゾンガスが発生していますから」と忠告をしてくれた。僕が、よくわからないという表情をすると「紫外線が空気中の酸素に吸収されると、オゾンガスが発生するのです。一応、ダクトで屋外に排出するようにはなっていますが、100%ということはないですから」といった。

 機械のある部屋は、常に独特の臭いがしていた。それは、ニスの中に含まれる有機溶剤のものだとばかり思っていたが、それだけでなく、オゾンガスも混じっているらしいことがわかった。僕はどちらかというと、臭いに鈍感な方なので、あまり気にしていなかったが、何か対策をした方がいいと思った。作業部屋の窓には古い換気扇があり、壊れているものと思って、ずっと使っていなかったが、コンセントを差し込むと動き出したので、作業中は点けっぱなしにすることにした。

 Nさんは換気扇を動かすことを、何故かあまりよく思っていないようだったが、作業部屋の臭いのことは、常務や部長から指摘されていたので、黙認という姿勢だった。夏が過ぎ、秋になり、そして冬がやってきた。冬になると、陽が低くなり、空気が乾燥してくる。陽が低くなったことで、換気扇の羽根の部分から陽が機械の上に落ちるようになった。ニスは紫外線で硬化する性質があり、日光くらいでは大丈夫なのだが、あまりいいことではない。さらに換気扇を回すことによって、部屋の乾燥が酷くなり、加湿機を点けても、湿度が30%台になる日がでてきた。乾燥もニスに悪影響を与える。

 機械に当たる直射日光と乾燥を理由にNさんは、換気扇を撤去すると言い出した。有機溶剤を使っている部屋を密閉状態にするのは、常識を外れているように思ったし、実際に有機溶剤の入った一斗缶の注意書きに、使用時には換気を行うことと明記されていたので、換気扇を撤去することは、問題があるとNさんにいった。以前、常務から本社では換気扇を二つ使っていると聞いていたので、そのこともいうと本社に電話をかけて確かめていた。

 換気扇を止めて窓を開けるという提案をNさんはしてきたが、窓は陽を防ぐための遮光用の布で覆われており、開けても空気の入れ替えは全くといっていいほど期待できない。僕は、Nさんの提案を半ば無視することにした。換気扇を回した状態でも湿度を保つ方法はあるし、換気扇から入り込む直射日光にしても、換気扇の下の部分に遮光用の屋根のようなものを設置すれば済むからだ。第一、ニスの状態より、人間の方がはるかに大切なはずである。

 Nさんもさすがに換気扇を撤去することは諦めたようだったが、僕のいない隙を見計らったように換気扇を止め、その窓を閉じたりした。そしてほとんど換気の期待できない遮光用の布が張り巡らされた窓を、一応はやっているというアリバイ作りのために、1センチほど開けたりした。僕が戻り、また換気扇を回すといういたちごっこのようなことが続いていた。

 そういうことを繰り返しているうちに、Nさんの堪忍袋の緒が切れたようで、ある日、作用部屋に入ってくるなり「(仕事を)やりたくないなら、やらなくていい!」と怒鳴った。僕が仕事をやりたくないため、難クセをつけていると勘違いしたらしい。「それだったら、他の仕事に回してください」というと、「他の仕事なんかない!」とまた怒鳴りつけられた。僕も頭に来て「そんなの不当解雇じゃないですか?それだったら、労働局に相談に行きます」というと、慌てて「上司と相談して、対策を考える」といった。

 その後、一月ほど静かな時期が続いた。静かといっても、何もなかったわけではない。まず、これまで三週に一度の割合で出勤していた土曜日だったが、「もう出なくてもいい」ということになり、繁忙期に向けて夜間のアルバイトが入ったから、「早く上がってくれ」ということになり、それまでやっていた機械のメンテナンスも「こちらでやるから、しなくていい」ということになった。つづく…(2013.12.16)




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