庭にヒキガエル

 現在、住んでいる家は一階で、狭い庭がある。以前は二世帯住宅で大家さんのご両親が住んでいたらしく、その後は、親戚の人が間借りしていたそうである。大家さんのご両親は庭いじりが好きだったようで、庭の一部は花壇になっていて、使われていない植木鉢が転がっていたりする。

 いつだったか、たぶんまだ寒い四月上旬頃だったと思うが、使われていないやや大きめ植木鉢を移動させようと持ちあげたら、その下にヒキガエルがいてびっくりした。昼間だったので、その下で眠っていたのだろうか、悪いことをしたと思い、すぐに鉢を戻した。

 以前に住んでいた品川のアパートでもヒキガエルを見かけることがあった。そこも狭い庭があり、仕事を終え、夜遅く帰宅するとアパートの敷地内にある縁石の上やその周辺にいることがあり、驚いたものだった。出会う回数はそれほど多くはなかったが、数年に渡っていたので、その周辺に棲みついていたように思う。

 五月に入り、庭に雑草の目立ち始めた頃、花壇の手入れをしていた妻が大声を上げた。理由を訊くと、大きなカエルを見たという。恐らく植木鉢の下で眠っていたヒキガエルだろう。妻は何でも殺そうとするところがあるので、ヒキガエルは害はないし、庭に生物がいるというのは楽しいものだから、そっとしておくようにというと、気持ち悪くて殺せないといったので、ほっとした。

 それから、何回か庭でヒキガエルを見かけた。夜、庭に下りると、草の中をゴソゴソと動く音が聞こえたりすることもある。それにして、こんな住宅密集地になぜヒキガエルが…と不思議になるが、ネットで調べてみると、それほど珍しいことでもないらしい。

 ヒキガエルは昼間、草むらや石の下で休み、夜間にエサをとるため動き出すが、その行動範囲はきわめて狭く、ねぐらから数十センチくらいらしい。一回の採食に出てくる時間はわずか三時間ほどで、その後はまた石の下や草陰に入り休み、二十日も出てこないこともあり、一年間で採食にかける時間は二十四時間から七十二時間ほどであるという。

 そんな、ずぼらな生活をおくるヒキガエルだが、交尾の時期になると、毎年、決まった池や沼に移動し、時としてその移動距離は数キロに及ぶこともあるそうだ。地図で家の近くにある池を探してみると、適当なものがふたつばかり見つかった。どちらもお寺の境内にある池で、静かで埋め立てられる心配もなく、カエルの交尾場所としては、絶好だと思われる。

 家からの距離は、どちらも一キロを超えているが、住宅街がずっと続いているので、広くて交通量の多い道路などはなく、車や人通りの少なくなった夜間に移動するのなら、あまり危険はなさそうである。それでも、ヒキガエルにとっては、命がけの大旅行ということになるのだろうか?

 ヒキガエルの交尾時期は冬眠から覚める三月上旬あたりだそうで、庭のヒキガエルは、無事に交尾をすませて戻ってきたのだろう。ヒキガエルは大食漢ではなさそうだけど、庭にはエサになりそうな昆虫は少なそうで、暮らしていけるのか心配である。(2013.6.16)




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