お部屋探し

 現在、住んでいる家を三月末までに、退去しなくてはならない。借りている物件は2Kの一軒家で、二年の定期借間という形態での契約なのだが、更新はしないと昨年の十月に不動産屋から通知が来た。今まで三回更新し、六年間住んでいたが、今回は何となくイヤな予感があった。というのも、今までは六月くらいに更新の通知が来ていたのに、それが昨年は来なかったので、或いは今回が最後かなと思っていたのである。

 大家さんが体の調子を崩して管理がおぼつかなくなったのと、家屋の老朽化で賃貸を止めることにしたらしい。「宝くじでも当たればリフォームして、また、賃貸にしてもいいんだけど、そうでもないと採算が取れそうになくてね」と会ったときいっていたが、どうやら宝くじは当たらなかったようだ。

 今住んでいるところは、不動産屋から‘掘り出し物’といわれるくらい条件のいいものだった。それに六年間住んでいた愛着もあり、ほんとなら更新なしの通知が来た十月くらいから部屋探しを始めた方がよかったのだろうが、なかなか腰を上げるタイミングが掴めずにいて、年を越してやっとそろそろ動かなくてはと思い始めたという次第である。

 以前にお世話になった不動産屋さんの社員さんから、お部屋がまだ決まっていないのなら、お手伝いしましょうかと電話がかかって来ので、彼女にお願いすることにした。そして、先日の日曜日、初めて店にいった。

 駈け出しの新入社員だった彼女が、現在は主任になっていた。彼女はこちらの条件を訊いて、いろいろと物件を提示してくれたが、琴線に響くようなものはなく、妻と僕の意見の違いも露呈して、ただ、いたずらに時間だけが過ぎていった。僕は住環境を重視し、妻は通勤の利便性を重視しているのだから、なかなか意見の一致をみないのである。今までが良すぎただけに、その後遺症が出ているのかもしれない。

 それにしても感心したのは、不動産屋さんの社員の彼女である。当然といえば当然のことだけど、こちらの意見を親身に聴いてくれて、勝手気ままな要求にも、イヤな顔ひとつせず、長い時間付き合ってくれた。

 六年前にいったある不動産屋では若い男性の社員だったが、部屋を見に行って、あまりよくなかったので「考えておきます」と婉曲的に断ったら、露骨にイヤな顔をされ、帰りの車の中でも気まずい雰囲気の続いたことがあった。

 せっかく店にいったのだから、一軒くらい物件をみておきたいと思い、辺りは暗くなり始めていたが、彼女が最後に提示した平屋の一軒家を見学した。状態がよければと思っていたが、想像以上に古く、妻は終始拒否姿勢で、道路に面した庭が波板で覆われていたりして、全く開放感のないことから僕もこれはナシだなと思った。まだ、時間もあることだし、焦らず引き続き探すことにした。

 今まで住んでいた所を離れるというのは、楽しみもあるが、一抹の寂しさもある。わくわくできるような、いい物件が見つかりますように…。(2013.1.16)




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