歯医者の受難

 妻の帰宅が遅かったので、そのわけを訊くと仕事帰り、歯医者に行ったという。妻は夜に歯ぎしりをするクセがあり、そのせいか噛み合わせがおかしくなってきたらしく、その上、以前、歯に詰めたものが取れ、それを入れ直したのだが、なんか具合がよくないようで、それも含めて歯医者にいったそうだが、満足な治療をしてもらえなかったと怒っていた。

 よく、よく、話を聞いてみると、歯医者は妻の訴えをあまり聞いてくれず、自分で勝手に診断?して、一番奥の歯が原因だから抜きましょうといったそうである。妻は歯を抜くなんてとんでもない、それにそこは関係ないというと、三十分くらいで済みますよといってきたので、改めて歯は抜きませんといったそうだ。

 すると歯医者は、私は歯医者ですよ、何であなた医者のいうことを聞かないのですか?といってきたので、あなたに私のことはわからないと言い返し、ここが当たっているんですと口を開けて指で示したそうである。歯医者は仕方ないので、妻に何か紙のようなものを噛ませて、噛み合わせを調べ直し、結局、妻の指示したところを削ったという。

 さすがに妻も家に帰ってしばらくしてから、あまりに言い過ぎたと反省していた。それにしても、その歯医者も患者が全く自分のいうことを聞いてくれなかったのだから、災難という他はない。家に帰ってから、家族に今日は酷い患者が来たよなどと話している姿が頭に浮かんだ。

 妻はペルー人だけに、自己主張の強い一面があるように思う。それは、ペルーに限らず外国人一般にいえることかもしれない。日本人は黙っていても、何となくその場の空気を察するが、外国人の場合はとにかく主張しないとダメなのである。妻もよく曖昧にニコニコ笑っているだけで、自分の意見をいわない女性の文句をいっていたことがあった。要するに、何を考えているかわからないというのである。

 しかし、その歯医者は本当に妻のいうように、ヤブなのであろうか?妻によると、とにかくそこは忙し過ぎるらしく、ひとり、ひとりの患者の扱いが雑になっているらしい。人の流れのよい、大型ショッピングセンターの中にある歯医者なので、客は次から次へと来るというわけらしい。それに完全に直すには、高額の治療を勧められたという。

 妻の話だけでは、歯医者が悪いのか、妻が強情なのか正確なところはわからないが、それほど大したこと無さそうなのに、高額の治療を勧めるというのは、何処か胡散臭い感じがしないではないので、別の歯医者にいってみて、別の意見を聞いてみた方がいいといった。

 そういえばと、妻は思い出したように、自分のお父さんのことを話した。妻のお父さんもペルーの病院で、医者に向かって「あんたに俺の体のことはわからない」といったことがあると笑っていた。妻の父親は、沖縄出身の日本人である。どうも、今回の妻のことは、日本人、ペルー人というよりも、遺伝ということだったのかもしれない。(2012.10.27)




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