妻の友人の解雇

 群馬に住んでいる妻の幼なじみアナから、妻の携帯に‘四月中旬にペルーにいきます’というメールが来た。アナは独身の女性でここ数年間は大手電機メーカーの工場で夜勤として働いていた。以前会ったときに、「夜勤は辛くない?」と訊くと、「自分から望んで夜勤にしてもらった」という答えが返ってきた。

 時給がいいということもあるらしいが、それ以上に精神的に楽ということだった。昼勤だと工場のおエライさんなどがいて、いろいろとうるさかったりするそうだが、深夜はそういう人たちがいないから、静かな環境で作業ができるのでいいそうだ。彼女はペルー人にしては、大人しいタイプで、人の多いところは苦手という人だから、深夜の工場での勤務というのはあっているのかもしれない。

 アナからの久しぶりのメールで‘ペルーにいく’という内容だったため、妻はその前に会いたいと思い、すぐに‘ペルーに行く前に会いましょうよ’という返信をした。すると彼女から‘工場の送別会があるので、日時はまだはっきり決められない’という返事が来た。‘送別会’ということは、彼女が会社を辞めたということで、ペルーに行くというのは遊びではなく、帰るということかもしれないと、彼女の休みの土曜日の夜に電話をして事情を訊くと意外なことがわかった。

 彼女は確かに工場を辞めていたが、それは自ら辞めたのではなく解雇ということだった。それも彼女だけでなく、社員を含む二百人が一斉に解雇されたという。生産拠点を国内から、海外へ移すということらしい。今、流行りの国内産業の空洞化の現実を見せつけられた思いがした。

 二百人が解雇されたという余波は、工場周辺にも及んでいるようで、いくつかの飲食店が店を閉めてしまったそうである。妻が「そっちにいったら、おいしいポヨ(鶏)食べよう」というと、「おいしい店があったけど、閉めてしまったから、デリバリーのところに頼むね」といわれたという。

 アナはこのままずっとペルーに帰ってしまうのではなく、二ヶ月くらい経ったら、日本に戻ってくるという。都会には住みたくないという彼女は、アパートの家賃を前払いしておいて、日本に帰ってきたら、また元の場所に住むらしい。とはいっても、大手電機メーカーの工場が撤退してしまった現在、働き口の少ない地方で仕事が見つけられるのか心配になってしまう。

 経済大国ニッポンも原発事故やら、円高やら、原油の値上げやらで、産業の空洞化が進んでお金を稼ぐには厳しい環境になりつつある。アナもいずれはペルーに帰りたいそうだが、それまでにはまだがんばらないといけないようである。

 彼女が日本に戻ってくる頃、季節は初夏に移っている。初夏の日差しが暖かく彼女を迎えてくれることを願っている。(2012.3.31)




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