節電の夏

 東北関東大震災による福島第一原発の事故で、東京電力管内は一律15%の節電を呼びかけられている。これは一般家庭でも同じであるが、この15%という数字の根拠が示されておらず、「一般家庭では節電する必要はない」という識者もいる。かくして我が家も全くというほどではないが、節電をする意識が乏しかった。

 しかし、先日送られてきた東京電力の明細書を見て、驚いた。ほとんど何も努力をしていないにもかかわらず、昨年の同月に比べなんと16%も電力使用量が減っていたのである。

 一体、これはどうしたことだろうと原因を考えてみた。一番大きな要因は、エアコンの使用時間が減ったことのように思う。昨年の猛暑に比べ、今年も六月下旬から七月上旬は暑かったが、下旬になって意外と涼しい日が続いた。さらに、今まで使っていたエアコンが壊れてしまったため、新品を大家さんに頼んでいれてもらったから、同じ時間使ったとしても、かなりの節電になるはずである。

 そして、テレビの地デジ化である。テレビのない日が、約5日続いたため、その分電気使用量が抑えられ、さらに、こちらもブラウン管から液晶の新品に変わったから、その影響もあるのだろう。

 意識的にやっていることといったら、それまで入れっぱなしになっていた電子レンジだとか、トースターだとかのコンセントを小まめに抜いたり、冷蔵庫の設定を4から3に変えたくらいである。

 うちはそんな状態だけど、近所では真剣に節電に取り組んでいる家庭がある。うちの裏側にある家に住んでいる家族だ。うちとその家庭とは町内会も違う班のため、全く交流はないのだけど、外から見るだけで節電しているのが一目瞭然なのである。何故なら、夜になってもうちと面している部屋の灯りは机の上のスタンドだけなのだ。

 その家のうちと面している部屋の窓際にはパソコンが置いてあり、いつもご主人と思われる男性が、ディスプレイを見ながら何かしている。震災前はというか、節電が叫ばれるまでは普通に部屋の灯りを点けてパソコンをしていたが、ここ数カ月はパソコンデスクの上に置かれたスタンドの蛍光灯で手元を照らしているだけなのだ。部屋は真っ暗で、ご主人の顔だけが蛍光灯の灯りに照らされて浮かび上がり、異様な光景である。

 二階は子供部屋だと思われるが、以前は夜になると灯りの灯ることが多かったが、ここのところはずっと暗いままである。うちからは確認できないが、恐らく灯りを点けているのは居間だけで、そこに家族全員集まって、余分な電力を使わないようにしているのだろう。しかし、ご主人は仕事でどうしてもパソコンを使わなくてはならず、デスクスタンドのみを点けて作業しているものと思われる。窓の開閉などのとき、何気なく目をやると必ずといっていいほど、彼はパソコンの前に座っている。

 朝のワイドショウで節電のためエアコンを点けずに熱中症になり、亡くなったお年寄りもいるとあるコメンテーターがいっていた。そして、それは根拠のない節電15%を訴えている東京電力のせいだともいっていた。そんな人、本当にいるのだろうか?という疑問はとりあえず置いておくとして、もし、そういうことがあったのなら、それは東京電力のせいではなく、その人自身の問題である。いわれたことをそのまま守り、死んでしまうなどということは、この場合美談でも何でもない。ただ、バカなだけである。電力が切迫しているから、節電をするというのは正しいことだと思うが、だからといって体を壊してしまっては、元も子もない。

 これは決して節電だけのことではない。いわれたことにただ従うだけでなく、自分の頭で考え、行動するということはとても大切なことだと思う。そういえば、今日は六十六回目の終戦記念日だった。(2011.8.15)




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