異動の憂鬱

 以前の部署の仕事はほとんどなくなった。ハローワークに行くにしても、会社を休むと、ただでさえ仕事がなくなり、労働時間が大幅に減少していて、時給労働者には厳しい。そこで、パソコンで検索していい求人が載ったら行こうと思っているのだが、それがなかなかない。そうして時が過ぎて行くうちに、会社側から別の部署に移り、そこの仕事を覚えるようにいわれた。

 翌日から、僕は新しい部署に移った。同じ会社で働いているわけだから、言葉は交わしたことはなくても、みんな何となく顔を知っている。そんな人たちと仕事をするのはおかしな感じだ。別の会社で全く面識のない人たちと仕事をすることを思うと、精神的にはだいぶ楽かもしれない。しかし、なまじっか顔を知っているというのは、何となく気恥ずかしさもある。

 しかも、その部署に社員は一人しかいなくて、忙しく駆けずり回っているものだから、僕は放っておかれることが多い。そういう時は、仕事をしているパートさんに「何かできることはないですか?」訊くのだが、その部署は三年くらい前に新設されたので、そこで働いているパートさんはみんな僕より勤続年数が少なく、気兼ねをして何か頼むことを躊躇っているようである。また、彼らの半数は入社して一年未満なので、自分のことで精一杯ということもあるのかもしれない。

 そうなると、何もすることもなく、ただ部屋の中で独りぽつんと立ちん棒ということになり、気まずい時間が重く圧し掛かってくる。こういったときは、全くの新人として働いた方が楽だなと思ったりするのだけど、それはまたそれで気の重いことである。

 しかし、三日、四日と経つうちに少しずつではあるが、できる仕事が増えてきてぼーっと立っている時間は減ってきた。よく考えてみると、今まで会社内での部署の異動ということを僕は一回しか経験しておらず、その一回も関連性の強い部署だったため、さしたる違和感もなく受け入れられたが、今回は全く違う仕事なので異業種に転職したような感覚で、それが気を重くしている原因かもしれない。

 他の会社に転職したのであれば当然その会社の仕事に興味を持っているか、それをやる覚悟ができているわけだから、気持ちの整理はついていることが多いと思うが、会社内での異動は全く興味のない部署に行かされることもあるわけで、そう考えると場合によっては精神的負担が転職した場合よりも大きくなることもあるかもしれない。

 そんなことをつい考えてしまうのも、次期課長候補だった社員が部署の異動をきっかけにうつ病になってしまい、ここ三カ月くらい会社を休んでいるからだ。淡々とした性格のように思えたので、当初は彼がうつ病になったとは信じられなかったのだが、異動先の部署の人間関係で悩んでいたという。

 彼の異動先の部署は職場崩壊といえるような状況だった。若手の社員が高圧的な上司にキレて一週間も会社を休み、仕事が滞るということまで起きた。職場を再生させるため彼が送り込まれたわけだが、上と下の板挟みになって苦しんでいたらしい。高圧的な年寄りに、すぐキレる若者…、確かに辛そうである。交流のあった元の職場のパートさんに近いうちに飲みに行きましょうといっていたというから、誰かにじっくりと話を聞いてもらいたかったのだろう。

 会社内の異動というものは、時として転職した以上のストレスのかかることもあるように思う。僕は異動になってから、まだ一週間くらいしか経っていないが、今週の木金は久しぶりに会社を休みたいという気持ちになった。しかし、仕事のないことを思えば、そんなこともいっていられない。あれこれ考えず、気持ちを楽にもって、仕事に集中することにしようと思う。(2011.6.25)




皆さんのご意見・ご感想をお待ちしています。joshua@xvb.biglobe.ne.jp

TOP INDEX BACK NEXT