横浜港シンボルタワー

 日曜日、曇ってはいたが、幸い雨は降っていなかったので、妻と横浜港シンボルタワーに行った。横浜港シンボルタワーは本牧ふ頭D突堤の西端に位置し、横浜港に出入りする船の信号所と展望施設を兼ね備えた横浜港のシンボルとして建設された。

 まず、桜木町までJRで行き、そこからバスに乗ることにした。しかし、横浜港シンボルタワー行きのバスは一時間に一本しかなく、それに乗り損ねてしまい、仕方なく一つ手前の海づり桟橋行きに乗り、そこから歩くことにした。

 バスは神奈川県庁、山下公園、マリンタワーなど賑やかな横浜の名所を巡っていく。山下公園では何かイベントでもあったのか、大勢の人たちが集まり、道路の面したカフェのオープンテラスでは多くの人たちが、気持ち良さそうにドリンクを飲んでいた。やがて車窓からの景色は繁華街から住宅街に変わり、そして倉庫と工場の立ち並ぶ殺風景なものになった。発車時はほとんど満席だったバスも、本牧ふ頭に入る頃には乗客は僕たちを含めて三人だけになった。

 しかし、僕は何故か殺風景な景色に心ひかれる。以前、夏になると北海道に行っていたは、そういった景色の中に身を置きたかったからという側面もあった。あまり人も来ないような場所で佇んでいると、深い安らぎを覚える。

 終点の海づり桟橋でバスを降り、そこから歩いた。それほど距離はないとおもっていたのだが、表示をみたら一キロとあり、妻は不平を口にしたが、海風にあたりながら歩くのは気持ちがいいよといってなだめた。

 海沿いの道の右手は腰くらいの高さまでコンクリート製の護岸で覆われ、左手には積まれた多くのコンテナがあった。交通量もほとんどなく、殺伐としていて正に埋立地といった感じである。遠くの横浜港シンボルタワーの白い塔だけが、場違いな雰囲気で存在していた。

 十五分くらいで、シンボルタワーに着いた。シンボルタワーの周りは芝生で覆われた園地になっていて、親子が野球やサッカーをしていたり、犬の散歩をさせている人も多かった。ベンチが多いため、のんびりするのは格好の場所である。

 園地からタワーに繋がる階段を上がり切ったところに展望ラウンジがある。僕がシンボルタワーに行きたくなったひとつはこの展望ラウンジを見てみたかったからなのである。展望ラウンジは、円柱形で海側に半円状に設置されている。したがって中に入ると円形のチューブの中を歩いているような感覚になる。天井は鉄骨が組まれているだけで空いていて解放感があり、ベンチも多数設置されているため、のんびりと景色を楽しむことができる。

 しばらく妻とここで過ごした後、今度は芝生の上にあるベンチに移動して、埠頭の景色を眺めながら、いろいろと話した。埠頭はほとんどがコンテナ置場になっていて、このシンボルタワー周辺だけが緑に覆われたオアシスのように存在していた。

 お腹も減ってきたので、シンボルタワーの真向かいにある休憩所に行った。横浜港シンボルタワーのホームページに休憩所で軽食がとれ、本牧カレーを販売しているというようなことが載っていたのである。確かに書かれていたことに嘘はなかった。軽食をとることはできるのだけど、食堂や喫茶店があるわけではなく、ただ自動販売機でチャーハンやホットドッグ、焼き握りなどが買えるというだけで、本牧カレーもレトルトのカレーを販売しているということだったのである。しかも、販売員の姿はなく、休憩所の管理をしているおじいさんに声をかけて、売ってもらうということのようである。がっかりしたが、妻はその自動販売機でたこ焼きを買った。美味しくはなかったが、思ったほど不味くもなかった。

 また、シンボルタワーに戻り、芝生の上にあるベンチに座って、のんびりとした時間を過ごした。折角、シンボルタワーに来たのだから、展望室まで行ってみたいと妻がいうので、階段を上った。階段は階によって色分けされていて、色の変わるたびに気分も変って、多少は疲れを軽減してくれているようだった。

 展望室からの眺めはいいが、狭く、また曇っていたため、それほど遠くまで見通すことができず、早々に降りてしまった。再び、展望ラウンジの回廊を歩いているときに、大音量で最終バスの時刻が迫っていることの放送が入り、バス停に向かった。バス停には誰もおらず、結局、バスに乗ったのは僕と妻だけで、他の人たちは車か自転車で来ているようだった。

 バスに揺られながら、行きとは逆に徐々に華やかになっていく街並みを見ていた。隣の妻はいつも通り寝ている。起こすのもかわいそうなので、帰りは横浜駅まで乗っていくことにしようと思った。(2011.6.17)




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