八年振りのハローワーク

 部署の解体が進み、仕事は激減している。現在はだいたい七時間働いているが、その中で実際に仕事のある時間は、三時間にも満たないかもしれない。部署内の机や椅子もだいぶ運び出され、フロアーの約半分は何もない状態で、それを見て他の階の人たちは「ずいぶんと寂しくなったねぇ」と溜息まじりにいう。

 秋くらいに空いたスペースに機械を導入して、新規の仕事を開始するということらしいが、具体的な説明はほとんどされておらず、ただ不安だけが広がっていく。たとえ、それがうまくいったとしても、給料の低さと身分の不安定さは変わらないだろうし、この際新しい仕事を探すことにした。

 先日、午前中だけで会社を早退し、最寄りのハローワークに行った。ハローワークに行くのは今の会社に入る前だから、約八年振りである。ビルの二階が求人検索と職業相談のフロアーなのだが、階段の踊り場は多くの人が屯しており、その雰囲気に足が一瞬止まった。震災以来、雇用の悪化は知っていたが、それを目の当たりにした思いである。
人混みの中を歩いて受付に行き、女性の職員さんに、
 「求職の申し込みをしたいのですが?」と声をかけた。
 「はい、離職票はお持ちですか?」
 「あの、在職中なのですが…」
 「それでは、これに記入してください」と求職申込書を渡され、「それに記入したら、受付に持って来てください。その後、窓口で手続きになりますけど、今、かなりの人数の方が待っているので、先に番号札を取っておいてください」と言われ、番号札を発券する機械を教えてくれた。そこのボタンを押すと123番という数字の書かれた紙が出てきた。

 受付の外にある台で、求職申込書に記入した。この中に‘希望する仕事’という欄があるのだが、どう書けばいいのかよくわからず、困った。希望も何も、この年になったら、とても叶うものではないように思われ、気恥ずかしくなったのである。とりあえず、自分の今までやってきた職種ということで、製造業、サービス業とただ大雑把に書いた。台の近くに立っている男性がずっと僕の書いている内容を見ているのも気になった。

 それを持って受付にいくと、職業相談は奥の方なので、中のベンチに座って番号が呼ばれるのを待っていてくださいと言われた。階段の踊り場にいる人たちは、検索機の順番を待っているらしい。検索機を使うときは、階段の踊り場で順番を待たなくてはいけないのかと思うと気が滅入った。

 ベンチにはそれほど多くの人は座っていなかったが、表示されている番号をみるとまだ110番で、僕の順番が来るのはかなり先のようだった。検索機の順番待ちは進みが早いが、職業相談の方は遅々として進まないといった感じで、一時間近く待たされることになった。

 番号を呼ばれ、その窓口を見ると、比較的若い男性の職員さんが手を上げて僕を誘導した。求職の申し込みに来たことを告げ、求職申込書を渡すと、いくつか質問をされた。
 「希望する仕事のところに製造業となっていますが、具体的にどのようなものを考えていますか?」と訊かれたが、具体的に何も考えていなかったため、
 「年も年ですから工場とか、そんなことを…」と曖昧に応えると、
 「はあ」といって、それ以上は突っ込んで訊いて来なかった。僕自身もまだ失業はしていないので、真剣さが欠けていた。中半端な気持ちでは、ダメだと強く感じた。早期再就職のススメという小冊子とハローワークカードを貰って、家に帰った。始めは、一時間くらい検索機を使って仕事を探してみようかと思っていたのだけど、順番待ちの人の多さに気持ちが萎えてしまったのである。

 これから、焦らずじっくりとある程度の収入を得られ、自分に合った仕事を探そうと思う。この年では、或いは絶望的なことなのかもしれない。しかし、幸運を信じて、上を向いて歩いて行くしかない。(2011.5.25)




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