横浜赤レンガ倉庫

 土曜日、仕事を終えてから妻と横浜赤レンガ倉庫へ行った。ここのところ週末になると、毎週のように妻とケンカになっていた。週末は疲れがたまっているため、普段だったら笑って済むようなつまらない些細なことでも、ついつい言い争いになってしまうのだ。そんなわけで、たまには外食を兼ねて遊びに行こうということになったのである。赤レンガ倉庫は前々から行ってみたかったので、気分転換にはいいかなと思った。

 最近は、何処何処へ遊びに行こうということになっても、直前になって「疲れているから、止めよう」というようなことが重なり、妻は今度もまた同じことになるのではないかと思っていたようで、何度も僕に「本当に行くの?」と念を押してきた。本当に行くとわかったときは、声も弾み、うれしそうな表情をしていた。「本当に行くとわかるまで期待しないことにしているの。だって、期待していて、やっぱり止めようって言われると、がっかりするからね」という科白が寂しかった。

 京浜東北線で桜木町駅まで行き、汽車道を歩いて赤レンガ倉庫に向かった。ここのところ暑い日が続いていたのだけど、この日は五月らしい爽やかな陽気で海を渡る風が気持ちよかった。時刻はすでに6時半近くになっていたが、まだ十分に明るく、楽しい気分で歩けた。

 汽車道の両側は海であり、路面は線路跡が残されていて、ボードウォークになっているので板の柔らかい感触が足に伝わってくる。薄暮の中、街路灯に灯が灯り、ロマンチックな雰囲気に妻はとても喜んでいた。汽車道を抜けた辺りは公園になっていてベンチもあり、もう少し早い時刻だったら、ちょっとのんびりとしたい感じだった。前を見ると門のような建物、ナビオス横浜があり、その空いている部分から赤レンガ倉庫が見えた。

 赤レンガ倉庫に着き、まずは母の日に母に贈るプレゼントを探した。妻はじっくりと買い物をするのが好きなので、急かすようなことは止め、僕はただ妻の後について歩いた。いつもはイライラするのだけど、赤レンガ倉庫の雰囲気がよかったせいか、僕の心は穏やかだった。いろいろな店を回り、馬が描かれている暖色系のスカーフを妻は選んだ。

 買い物も終わったので、食事をしようということになり、2号館に行き、食事処を見て回った。妻は中華料理を食べたかったようだが、僕が洋食に固執したので、ふたりとも横濱たちばな亭のオムライスを食べた。僕は何故か旅行に出るとオムライスが食べたくなり、この日は旅行などという大げさにものではなかったのだけど、その癖が出てしまったようである。しかし、妻はたちばな亭のオムライスが気に入らなかったようだ。

 もともと妻はオムライスをあまり食べたことがなく、特にケチャップで味付けされたチキンライスは苦手のようで、始めは「まあまあ」と言っていたが、食べ進めるうちに「失敗、失敗」と言いだした。デミグラスソースも焦げの味がするし、美味しいのはたまごだけなどと言っていたが、残さず全部食べた。焦げの味はしなかったが、確かにデミグラスソースは独特だったので、人によって好みが分かれるかも知れないと思った。

 食事を終えた後、赤レンガ倉庫の外に出て、海側にあるベンチに座って涼んだ。夜風が気持ちよく、ライトアップされた赤レンガ倉庫も美しかった。二号館を見上げるとバルコニーがあった。外は寒いくらいなので、あまり人は見かけなかったが、あんなところで食事が出来たらいいなと思った。

 多くの人たちが、赤レンガパークに出ていたが、僕たちの座っているベンチの10メートルほど横にいる若い男性がおかしな動きをしているのを妻が見つけ、「おかしな人がいるよ」と僕に知らせた。独りで何かブツブツ言いながら、太極拳のような動きをしていた。演劇系、或いは芸術系の人なのかもしれないと思った。

 だいぶ体が冷えてきたので、赤レンガ倉庫を後にして駅に向かった。行きと同じ道を歩いているつもりだったが、いつしかよこはまコスモワールドの大観覧車の前に出てしまった。妻は大観覧車を見て、「これに乗ってみたい」と言い、観覧車に関する想い出話をした。ペルーで暮らしていた時、妻は従姉弟たちといっしょに遊園地へ行き、観覧車に乗ろうとした。しかし、待っている間に従姉弟のひとりが観覧車の動きを見ていて気持ち悪くなり、乗れなくなってしまったという。コスモワールドの大観覧車を見ていたら、その情景が浮かんできた。

 僕たちは軌道修正して、汽車道に入り、桜木町駅に向かった。行きは気づかなかったが、汽車道の桜木町駅側の始点近くに、帆船が係留されていて、博物館も併設されている。今度来た時は見学したいと思った。

 久しぶりに遊びに行けたので、妻の機嫌もよく、楽しそうでうれしかった。最近は仕事のことなど、いろいろと悩みは多いが生活を愉しむことは忘れないようにしたいと思った。(2010.5.15)




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