土曜日、久しぶりに母の家へ行くと、電話が壊れてしまったから、見てくれないかという。受話器をとって耳に当てると雑音だけが聞こえる状態だった。母の家の電話は、僕の前に使っていたパソコンのモデムに繋がったままなので、そのあたりに原因がありそうだと思い、モデムから切り離して直に繋いでみたが、状態は変わらなかった。

　繋いだ時に、モジューラージャックの入りが緩いような気がしたので、引き出しの中を探してみるとまだ新しい電話線があったのでそれに換えてみたら、何とか直った。電話線のモジュラージャックの劣化が原因だったらしい。

　ただ、電話本体側のモジュラージャックもかなり劣化しているようで、ちょっとしたはずみでまた使えなくなってしまう。もし、また電話が使えなくなってしまったら、ここを押し込めば直るからと母に言っておいた。

　いっしょに昼食をとった後、母は知り合いの町工場まで手伝いに行き、僕は2時くらいまでテレビを見て帰った。夜、早速、母から電話がかかってきた。妻が取って、いろいろと世間話をしていたようだが、弟のところに電話をかけたが、ずっと話し中になっていて繋がらないから、そっちからもかけてみてほしいと言われたという。早速、弟のところにかけてみると、母のいうように話し中になっていて繋がらない。時間をおいてまたかけたがやっぱり話し中だ。しかし、受話器が外れたままになっていて、それに気づかないのだろうと、それほど気には留めなかった。

　翌朝、また母から電話がかかってきた。それによると昨夜の11時くらいにかけたら呼び出し音は鳴ったが、時間が遅かったので弟が出る前に電話を切り、朝、再びかけ直したら、また話し中になっていて繋がらない、心配だから見に行こうと思うということだった。さすがに少し心配になったが、もう少し様子を見てからでもいいんじゃないと僕は母に言った。3連休中なので、外出している可能性が高いと思ったのである。

　そうはいったものの、気になり、ほとんど1時間おきくらいに弟の家に電話をかけたが、話し中のままだった。これは一体、どういうことのだろうか？受話器の外れている場合、ある程度時間が経つと、それを知らせるために音がするはずだ。それに気づかないということは、家にいないということか、家にいてもそれに対応できない状態になっているかだ。弟は音楽好きで、ヘッドホンをしてCDを長時間聴いていたりするので、一定の時間、音がしていても気づかないということはあり得る。しかし、一晩経って気づかないということは考えられない。

　弟は旅行好きではないが、3連休だし、友達から誘われれば泊りがけで出かけるということもあるかもしれない。しかし、その可能性は低いように思われた。何かよくないことでも起きているのだろうか？意識的に受話器を外しているということは無いような気がする。あと、考えられることは、電話の故障か、料金未納のため電話を止められたかだ。結局、日曜日、弟の家の電話は話し中のままだった。

　母には心配しなくても大丈夫だと言ったが、僕も心配になってきた。心配しているくらいなら、家に行ってみようと思い、月曜日、仕事を終えてから弟の家へ向かった。その途中、悪い考えがいろいろと浮かんだ。階段で足を踏み外した、お風呂場で滑って転んだ、等々…。しかし、いずれの場合も話し中ではなく、呼び出し音は鳴るが誰も出ないという状態になるはずだ。事故または突然の体の不調で、誰かのところに電話をかけようと受話器を取り上げ、そのまま意識を失った…ということなら今の状態になる。いや、いや、それはドラマの観過ぎだ…。

　弟の家の最寄駅に着いた頃には辺りは暗くなっていた。これだったら、一目で家にいるか、いないかわかる。灯りが点いていればいいが、消えていたときはどうしたらいいのだろう？アパートとかマンションの集合住宅だったら、大家さんに事情を話して鍵を開けてもらうということができるかもしれないが、弟の家は一軒家でそういうわけにはいかない。

　それに灯りが消えているといっても、ちょっとそこまで買い物に行っただけということも考えられるし、あまり大騒ぎはできない。でも、いなかったら本当にどうしようか？近くに喫茶店でしばらく時間を潰して、もう一度訪ねようかなどといろいろと考えたが、そんな心配は杞憂に終わった。一階の居間と二階の弟の部屋に灯りが点いていたのである。

　ほっとしてインターホンを押すと、しばらくして弟の声が聞こえた。いきなり僕が訪ねてきたので、少し驚いたようだったが、事情を話すとさらに驚いた。弟は電話が繋がらなくなっていたことに、全く気づいていなかった。家に上がらせてもらい、電話を調べたが、うんともすんともいわない。電話機の故障が原因のような気がするが、弟によると今月から電話料金を口座引き落としにしたので、ひょっとしたら、口座から引き落とされずに止められてしまったのかもしれないという。しかし、わずか数日遅れたくらいで、いきなり電話を止めるなどということがあるだろうか？僕の携帯からNTTに電話をしてきいてみると、15日に料金は引き落とされているということだった。

　やはり、原因は電話機だと思い、どうせ壊れているのなら開けてみようということになったが、裏のネジを見ると専用工具でしか開かないものだった。
　「しょうがないから、今日にでも電話を買うよ。しかし、こんなに突然壊れるものかな？」
　「何年、使っているの？」
　「もう6、7かな年。でも、おかしい気はしていたんだ。だって、この一週間、一度も電話が鳴らないし、留守電も全く入っていなかったからね」

　結局、電話が繋がらなかった理由は、電話機の故障ではなかった。翌日、弟は電話機を買い、接続してみたが前と同じだったという。それでNTTに連絡をして、調べてもらったところ、電話線が傷ついていたそうだ。弟によると10日くらい前に、地デジのアンテナを取り付ける工事を行ったそうで、どうもそれが原因だったらしい。(2010.3.25)