兆候

 昨年の暮れ、部署統合の話しが再び持ち上がった。仕事量が激減したため、現在、二つの事業所で行っている同一の仕事を一つの事業所に纏めてしまうというものだ。その作業に関わっている統合される側の人は、統合する事業所に異動するか、他の部署に回されるということで、解雇の話はなかった。

 しかし、現実的に考えてみれば、統合先にはその仕事をしている正社員が3人、パートが6人もいるのだから、新しい人は必要ないと思われる。統合先で働くことになったとしても、労働時間はかなり減らされるはずで、生活できなくなることは目に見えていた。したがって、部署の統合は失業とほとんど同意語だったわけである。

 部署の統合は仕事量の落ち込む2月に行われるという見方が強かったが、先日になってそれは突然中止ということになった。社長は気分の変わりやすい人なので何ともいえないところもあるが、統合に関わっている社員さんの話によると、それは延期とか凍結とかいうレベルではなく、完全に中止ということになったらしい。
 「いつまでかはわからないけど、仕事のある限り、今まで通りということになった」
 「まあ、統合といっても、機材を運んだり、それを設置するためにフロアーの工事もしなくてはならないだろうし、そう考えると経費がかさみ過ぎるということですか?もう、先の見えている仕事にあまりお金をかけたくないということなのでしょうね」
 「まあ、そんなに経費がかかるというわけでもないのだろうけど。よく、わからないよ」
 とりあえず、ほっとしたが、喜んでばかりもいられない。恐らく統合という形ではなく、廃止という道を歩むような気がするからだ。

 統合問題が中止になったのは、会社にもう統合するだけの力がなくなったからのように思われる。今はどの部署でも仕事が激減しているようで、今まで忙しそうにしていた他の部署の人なども5時半まで時間を潰すのが厄介だと話しているし、6時にはほとんどの社員が帰宅している。たまに遅くまで残っていたりすると、最後の社員が見回りに来て「何時まで?」と訊かれてこともある。遅いといっても6時を少し回ったくらいなのだ。

 さらにここのところ会社の備品も、欠けているものが多くなってきたように思う。掃除をしようとして洗剤を総務に借りにいっても切らしていたり、トイレットペーパーが数日、無くなったままだったりする。

 さらに会社の経営状態を圧迫していると思われるのが、昨年の繁忙期に雇った新規のパートさんたちである。会社の‘新規事業’のために大量に採用したのであるが、その肝心の‘新規事業’の受注がほとんどない状態のようだ。しかも、その‘新規事業’は社長の肝いりのため、なかなか方向転換ができないでいるらしい。‘新規事業’といっても次世代を見据えた新しい仕事ではない。昔からある分野に今の会社が新規参入したというだけである。しかも、その分野はこれからの日本の人口動静を考えたときに、どう考えても伸びることのないものなのだ。

 古いパートさんたちには、労働時間を減らすように指示が出されたが、その‘新規事業’に関わっている新しいパートさんは今まで通りでいいといわれているそうだ。全くおかしな話で、何人かの人が会社の上層部に抗議したらしいが、聞く耳を持たなかったという。

 倒産前の会社というものは滑稽なほど、おかしなことを次から次へと大真面目でおこなうものだ。幸いにして、僕が勤務中に倒産してしまった会社はないが、辞めた後に潰れたところはあった。その最後の頃は、もう全くめちゃくちゃな状態だった。

 経営者はこれでもかというくらいおかしなことを続け、従業員も全くやる気を無くして、勝手気ままな仕事振りだった。今の会社にもその‘兆候’がちらちらと見え隠れしているような気がして仕方ない。(2010.2.20)




皆さんのご意見・ご感想をお待ちしています。joshua@xvb.biglobe.ne.jp

TOP INDEX BACK NEXT