スーパー戦争

 今、住んでいる家の最寄り駅前には3店のスーパーがある。1店は元々個人経営だった商店が時代の変化によってスーパーになったような感じで、最も早くから地元に根付いていたのではないかと思う。そのためか、店内は狭く、レジは出入口近くにひとつあるだけで、品揃えも寂しい。

 店の外側では経営者だと思われる初老の男性が果物を前にして、歩道を歩いている人に声かけをしている。妻は一度、この声に呼び止められてグレープフルーツを買ったことがある。「これがいいよ」と渡されたグレープフルーツは、あまり美味しくなかったため、それ以来ここでは買っていないようだ。僕も朝食用の魚を買いに入ったことがあるが、種類はあまりなく、かといって出入口近くにレジのあるため手ぶらで出るのも何か気が引けて、結局、あまり美味しそうではない塩サケを買ったことがある。それでもたまに中をのぞくとそれほど多くはないが、数人程度の客は必ずいて、新しいスーパーに慣れない古くからのお馴染みさんが来ているようである。

 2店目は僕の家からみると線路の反対側にあるスーパーYで、店内はそれほど広くはないが品揃えは多く、値段もまあまあ安いため、いつも利用していた。特に魚類は充実していて、会社近くにある大手スーパーよりも、こちらの方が種類は豊富だった。野菜類は若干値段の高い気もするが、買いたいものはほとんど揃っていたし、鮮度も良かったので、初めは会社近くの安いスーパーで買っていたが、住み始めて半年を越えたあたりからこちらで買い物をすることがほとんどになっていた。

 もう、ひとつのスーパーは駅の近くなのだけど、駅舎の裏側にあったため、暮らし始めて数カ月の過ぎるまで、その存在に気付かなかった。ある時、たまたま散歩をしていて見つけ、バターを切らしてしまったときに買いに行った。店は3店の中では一番広く、スーパーYの2倍近くはあるように思う。しかし、品揃えは貧弱で、野菜、肉、魚とどれもスーパーYに全く及ばなかった。家に近いため、調味料を切らしてしまったときはよく買いに行ったが、それ以外に利用したことはなかった。そして、知らぬ間に、このスーパーは潰れてしまっていた。

 しかし、最近になってスーパーYに変化が現れた。野菜の仕入れ先が変わったのか、以前あったものがなくなり、品質が悪くなったような気がした。魚は特に顕著で値段が1割くらい高くなり、品揃えが見劣りするようになってきたのである。一番の変化はお客さんの数が激減したことだった。以前は土曜日の昼前などに行くとレジの前には長蛇の列ができていて、6〜7台あるレジはフル稼働をいう状況だったが、ここのところ動いているレジは3台程度で、その前に客が並ぶということもなくなっていた。

 何故だろうと疑問に思っていたのだけど、その理由がわかった。駅舎裏の潰れたスーパーの店舗に新しいオーナーが入り、リニューアルし開店していたのである。そのスーパーAにこの前の日曜日に初めて行ってみた。

 品揃えの豊富さ、値段の安さ、陳列の仕方など、スーパーYを圧倒していた。もうすでに勝負になっていない感じだ。以前スーパーYで売られていたブランド名のついた野菜がスーパーAの野菜コーナーに並んでいたりした。肉に関してもスーパーAの圧勝という感じだったが、魚だけは、特に朝食用の干物に関してはスーパーYの方に分があるような気がした。

 先日、朝食用の魚を買い忘れていることに気づき、会社帰りにスーパーYに行った。魚売り場を見て、僕は驚いた。全く種類がなくなっていたのである。以前はアジ、エボダイ、キンメダイ、カマスなどの干物があったのに、それがほとんどなくなっていた。ケースの中はスカスカという感じだった。結局、朝食用としては塩サケくらいしかなく、それを買って帰った。

 それにしても、これはどういうことなのだろうか?線路を挟んだ反対側には強力なライバル店が現れたというのに、試合放棄をしてしまったような雰囲気だ。客が激減したため、売り上げが落ち、それが仕入れに影響したということなのだろうか?それとも何か思惑があってのことなのだろうか?

 三越池袋店が閉店してしまったように、百貨店、スーパーは大変厳しい状況が続いているようである。しかし、家の近くでスーパーが1店だけというのは寂しいし、競争という観点からもよくないように思う。スーパーYの巻き返しを願っている。(2009.5.10)




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