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100年に一度という不況は、現在働いている職場にも影を落とし始めた。売上も大幅に落ち込んでいるようで、パートの一ヵ月の勤務時間を160時間以内に抑えるようにとの通達が本社からあったらしい。‘あったらしい’と書いたのは正式に、この話を僕は聞いていないからだ。 では、誰からこの話を聞いたかというと、パートのNさんからだ。Nさんはたまたま階段で課長とすれ違った時、このことを言われたらしく、それをみんなに言って回ったというわけである。 働いていればパートとはいえ、何となく会社の全体的な状況というのはわかるものだ。他の部署の人からも「暇で、暇で仕方ない」とか「仕事がなくて困っている」とかいう話が伝わってくるから、時間制限も仕方ないのかなという思いもある。しかし、それを同じパートタイマーから言われるのは納得できないものがあるのだ。 そういったことは会社のしかるべき人がみんなを集めて、会社の現状を説明し協力を求めるのが本来の姿ではないだろうか。それを何故、一介のパートがみんなに伝聞しているのか不思議で仕方なかった。 よくよく、訊いてみると、課長がNさんに「みんなに言っておいてくれ」と頼んだわけではなく、彼女が自主的にその役回りに就いてしまったようだ。僕もそのことをNさんから言われ、「そんなことはまだ聞いてない。それはあなただけのことじゃないの？」というと、それからしばらく経って社員のMさんがやってきて「Hくんもできるだけ、160時間以内に収めてくれ」と言われた。恐らくパートのNさんに、社員のMさんが「Hくん、まだ何も聞いていないって言っているから、社員から言っておいた方がいいんじゃない」とか言われたのだろう。
「160時間というのは、どういうことなのですか？160時間以内に絶対収めろということなんですか？それとも、若干は超えてもいいということなんですか？」訊くと 判然としないまま、それに従うというのもイヤだったので、僕は半ばこれを無視した。時間を減らそうとする努力を全くしなかったのである。ある日、5時を過ぎて残っていた仕事をしているとNさんがやってきて、5時以降は社員がすることになったからしなくていいと言ってきた。そんな話は聞いておらず、僕がそういうと、それはもう決まったことだからという。そう決まったのなら仕方ないが、やりかけの仕事を放ったらかして帰ることもできず、それでは変わりの社員さんが来るまでやるよと言って作業を続けた。 しかし、交代の社員さんは結局来ないで、僕が最後まで、といっても30分くらいなのだけど、仕事をして帰った。そういうことが数日続くと、今度はNさん自身が僕の仕事を5時以降は引き受けるから帰ってと言い出した。何故、Nさんが僕の労働時間をそこまで心配しなければならないのか理解できず、そのことを言うと「今度の時間制限は本社から厳しく言われているから」と言った。そんなことは社員の誰からも聞いておらず、何故、パートのNさんがひとりで躍起になっているのか理解を超えて怖くなった。 Nさんは僕だけでなく160時間を超えそうな人の全てのタイムカードを見て労働時間を調べ、注意を与えているようだった。パートなのだから本来Nさんは労働者側に立って会社と対峙しなくてはならないのに、何故、経営側の爪牙になっているのか、どういった心積もりがあるのか訝しく思った。 Nさんの労働時間を調べてみると、僕よりも数時間多いことがわかった。5時以降変わるというNさんにそのことを言い、また、社員から何の指示も出ていないことを伝え、僕は交代することを断った。Nさんは「私はタイムカードの締め日の前に2日ほど休むから、160時間を超えることはない。Mさんから何も聞いてないの？」としつこいので、「何もきいていない」というと「そう」と言って憮然とした顔をして帰っていった。 モンスターペアレントという言葉が世間に広まって久しいが、彼女は正にモンスター・パートである。社員の中を浮遊して、自分の意見をあたかも社員の意見のように見せて、みんなを従わせるということがこれまでに何回もあり、パート仲間のうちでは彼女を嫌っている人は多い。ただ、社員には、とにかく良く動く彼女を便利に思って重用する人もいて、それがさらに彼女を増長させているように思う。 あるパートさんに彼女は「ついて行く人を間違わないことね」と言っていたそうで、自分にとって役に立たないとみれば見向きもせず、地位があり自分にとって役立つと感じた人には誕生日を聞きメールを送ったり、バレンタインデーには臆面もなくチョコをあげたりしている。全くもってして、イヤな人なのだ。 しかし、同じ部署ということもあり、これからも彼女との関わり合いは続いて行く。どう接すればいいのか、胃の痛い今日この頃なのである。(2009.2.15) |
