六年目の秋

 繁忙期に入り、ここのところ仕事量が増え、忙しくなってきた。ふと、思い返すと、今の会社で働き始めて、6回目の秋を向かえたことになる。今の仕事は繁忙期が10月から12月とはっきりしているため、忙しくなるとまたこの季節が来たな…と思ってしまうのである。

 それにして、我ながらよく続いていると思う。6年というのは、僕の中では11年に続く2番目に長い職歴だ。今の仕事に就いたときは、長く続けるつもりもなかったし、また続くとも思っていなかった。長く続いた理由はいくつかあると思うが、精神的に楽だったというのが一番だと思う。

 パートという立場上、責任をあまり感じなかった。厄介なことは考えず、とりあえず目の前の作業をして時間がくれば帰るという繰り返しは物足りなさの残る反面、それに慣れてしまうと気楽だった。その気楽さが積極的に実入りのいい新しい仕事探すという行為を萎えさせてしまったのかもしれない。給料の安さはあまりお金を使わない僕にとっては、何とか我慢できる範囲だった。

 その気楽さから休みたいときには休んでいたが、妻をもってからはあまり‘ずる休み’はできなくなってしまった。それは結婚によって責任感を覚えたとかいうことではなく、ただ単に妻の怖かったことによる。

 妻はほんとうに健康な人間で、結婚してからただの一度も風邪を引いたこともなければ、お腹をこわしたこともない。子供のときから学校を休んだ記憶がないということだから、まさに健康優良児だったわけだ。

 そのため、体調が悪いという状態がわからないようで、たまに僕が高熱を出して苦しんでいても懐疑的で、ほんとうに具合が悪いのかとしつこいくらいに訊いてきて、ほんとうに具合が悪いとわかったときは何をしていいかわからず、ほとんどパニック状態になってしまったりして、こちらもゆっくりと寝ていることもままならならなかったりする。

 また、結婚してみると、やはり何かとお金のかかることも多くなり、‘気楽さ’ばかりを享受しているわけにもいかなくなってきた。これからの数か月は繁忙期だから、それなりに実入りもよくなるのだけど、年が明けたくらいには真剣に次のことを考えないといけないかもしれない。

 繁忙期ということで、短期の新しいパートさんがふたり入ってきた。ひとりは夜間大学に通う学生さんで26歳の男性、もうひとりは30代後半の主婦の人である。男性の方は、もっと若い時分にロンドンに留学したり、アジアを旅したことがあるという。ロンドンでは花屋さんでアルバイトをしたそうなのだけど、かなり時給が高かったようで多少貯金もできたらしいが、留学ということでビザをとっている関係上、労働時間に制約があり、大した金額にはならなかったそうだ。ロンドンはお金のかかる街らしいが、ヨーロッパ諸国は鉄道やバスの料金が概ね安価なため、旅行はしやすいそうだ。

 働き始めてすぐに彼は風邪を引いたとかで、会社を数日休んでしまった。僕は自分がずる休みばかりしていたせいか、他人もすぐに疑ってしまうが、ほんとうに具合が悪かったようで、出社してからもしばらくテッシュペーパーで鼻をかんでいた。主婦の人の方はいたって健康で、週5日、常に元気である。妻に限らず、主婦は‘健康優良児’の人が多いような気がする。やはり、家庭を支えているという自覚の違いなのだろうか?

 とにかくも、この冬はできるだけ風邪を引かないようにしないといけない。少しでも稼いで生活に余裕を持ちたいし、病気になって、妻のうろたえる姿を見るのは、イヤなものだから。(2008.11.9)




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