金木犀の香り

 夕食に生姜焼きを作り食べた後、11年振りに発表されたThe Verveの新作を聴きこうと思い、2階へ上がった。階段を上り終え、2階の襖を開けようとしたとき、何となく匂うことに気づいた。生姜焼きの匂いである。

 僕はあまりドアや襖を閉め切るのは好きではないので、玄関、台所、居間そして廊下とみんな開けっ放しにしている。また、電気代節約のため、換気扇を回さずに料理をしたりする。そのため、肉や魚を焼いた匂いが漂い、その行きつく先が階段の上ということになる。

 夏の間は、2階にある窓はほとんど全部開けていたから、匂いがこもるということはなかったのだけど、ここのところの冷え込みで今はほとんど閉じているため、こういうことになる。気分のいいものではないので、1階の廊下の突き当たりと階段を上がったところにある2階の窓を開けることにした。

 CDを聞き終えた後、風呂にでも入ろうかと襖を開けると、家の中全体にいい香りが漂っていた。金木犀の香りだ。家の近くに金木犀はあったかなと、ベランダに出て周囲を見回したが、暗くてよくわからなかった。

 この時期になると、街を歩いていても、金木犀の香りのすることが多い。それくらい香りの強い花だから、何処か遠くから風に乗って来るのかもしれないと思った。夏のように窓を開け放して寝るというわけにはいかないけれど、2階の階段の横にある窓だけを開けて寝ることにした。金木犀の香りに包まれて眠れるなんて、とても贅沢なことではないかと思った。

 もうだいぶ前になるが、北海道旅行のお土産として友人にラベンダーポプリをあげたことがある。友人はそれを枕元に置いて寝たそうなのだけど、ラベンダーには安眠効果があるようでぐっすりと眠れたという。‘匂い’というものを、意識的に取り入れると精神的に豊かになれるのかもしれない。今更ながら、アロマセラピーでもしてみようかと思った。

 翌日、回覧板を届けようとお隣さんまで行った。玄関のドア口に回覧板を置こうとすると、目の前に金木犀。もうここに住んでから1年半になるというのに、何故気づかなかったのだろうと、不思議になった。昨年の今頃も金木犀の香りはしていたはずである。気持に余裕がなくて、金木犀の香りどころではなかったのだろうか?

 金木犀は花の時期が短いため、この愉しみももうすぐ終わってしまうだろうが、来年もまた心地良い香りを届けてくれるだろう。その時はどんな気持ちで、迎えることができるのだろうか?少なくても、金木犀の香りに気づくくらいの心の余裕は持っていたいものだと思った。(2008.10.12)




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