車窓からの風景

 JRの北海道&東日本パスを使って東北地方を旅した。この北海道&東日本パスというのはJR北海道、JR東日本、青い森鉄道、IGRいわて銀河鉄道、北越急行の普通列車が1万円で5日間乗り放題という超格安切符だ。この5日間、東北地方のいろいろなローカル線に乗った。そこで列車の座席の配置による違いを感じた。

 列車の座席は都会の通勤電車のように進行方向に向かって横向きに座る通勤電車型と、新幹線や長距離列車のように進行方向に向かって平行に座るボックス型があり、初めは特に気にすることもなく、空いている席に座っていた。しかし、何回もローカル線を乗り継いでいるうちに、ボックス型の席を探すようになった。進行方向に対して横向きに座るか、平行に座るかでどれほどの違いがあるかなどと今まで考えたこともなかったが、今更ながらに何となくわかったような気がした。

 進行方向に対して横向きに座るタイプの座席だと、車窓からの風景というものを楽しむことは難しい。見えるのは自分とは反対側の窓からの風景であり、それも列車の進行方向に対して横向きに座っている関係から、その風景は自然と真正面のものになって、次から次へと流れて行って、とても楽しめるものではないし、また車内が混んでいれば立っている人によって全く見られなくなることもある。通勤電車型の座席の配置は、やはり外の景色など楽しむ必要のない通勤用で、特に長距離の旅行には不向きのように思う。

 これに対してボックス型の席だと、車窓に対して横に座るわけだから、自然と視線は列車の進行方向に対して斜め前か斜め後ろになり、自分の横にある窓から進行方向の、またはそれとは反対の風景を眺めることになる。それらは遠望となるから、ゆっくりと流れ行く風景を楽しめるし、また旅の相棒(今回は妻だったが)とのコミュニケーションもとりやすい。車内の混んできた場合、見知らぬ人と真向いに座るというのは気まずいこともあるが、慣れてくればそれほど気にもならなくなる。

 ローカル線でもその土地に住んでいる生活者の利用が多いような路線では、通勤型シートの列車が、観光客が多い路線ではボックス型シートの列車が使われているような気がした。また、人の利用の多い路線は通勤型、あまり人の乗らない路線はボックス型と言えるかもしれない。

 流れていく風景を見ていると、妙な想いに囚われることもあった。進行方向から向かってくる風景は未来、後ろに遠ざかって行く風景は過去、そして横に流れ続ける風景は現在…。現在は車窓から見る正面の風景のように次々とやってきては去っていき、ただ僕はそれに追われるばかりだなと思ったりした。

 それにしても、列車に揺られながらの旅というのは気持ちいいもので、あの独特の振動によっていつしか睡魔に落ち、眠ってしまったりする。僕は電車の中ではあまり眠れない方なのだけど、ボックス型の席だと横に座っている人間に気兼ねする必要もないせいだろうか、ついこっくりこっくりということになる。

 風景の楽しめるボックス型の席に座ると睡眠に堕ちやすくなるというもの皮肉なことだ。そして、気づくと車窓からの風景は全く変わっていて、浦島太郎になったような気持ちになったりする。(2008.8.11)




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