「風が気持ちいいから、歩いて帰ろうか」 ゴールデンウィークの最終日、仕事を終え、たまたま帰りのいっしょになった妻と家まで歩いて帰った。今の職場は家まで歩いても30分くらいの距離なので、散歩気分で帰ることができる。会社を出たのは6時30分過ぎだったから、日は長くなってきたといっても辺りはもう薄暗くなっていた。 花粉の影響もほとんどなくなり、風も心地よく仕事後の熱っぽい体を冷やしてくれた。夕暮れ時に歩くには、5月は最適な季節かもしれない。寒くもなく、暑くもなく、また日が短くなることによる秋の寂しさとは違い、日の長くなっていくことによる開放感のようなものがある。妻のアルバイトしているスーパーの前はゴールデンウィークのせいなのだろう、人通りも少なく閑散としていた。 今年のゴールデンウィークは曜日の並びが悪く、ずっと仕事ということになってしまった。今の職場は月・火曜日が忙しいため、祭日が重なってしまうといくらパートの身分とはいえ、休みづらいものがある。木曜日とか金曜日とかに祭日が当たってくれれば、休暇を取ることもできただろうし、久しぶりに妻と旅行でも行けたかもしれないなどとカレンダーを恨めしく思った。
しかし、こうして夕暮れの街を歩いていると、昼間とは風景も違って見えて、知らない土地を歩いているような感覚になる。さらにこの感覚を強くしようと、通ったことのない路地に入ってみる。 両側には古いアパートが立ち並んでいて、玄関の曇りガラスにはぼーっと橙色の白熱球の灯りがひとつ浮かんでいたり、猫の額ほどの物干しにはくすんだ色のシャツだとか、はき古したジーンズが無造作に干されていたりして、時間と空間を越えて何処か違う場所に滑り落ちたような気持になる。
「こんなアパート雰囲気いいね」とひとつのアパートを指さして妻に話しかけると
どうして女は現実的なのだろうか?夢想に耽ったりすることはないのだろうか?
夕暮れ時の散歩で旅気分を味わうというのも、考えてみればただの現実逃避なのかもしれないが、何となく楽しい気持ちなのは確かだ。ふたり並んで歩くのも久しぶりのような気がする。そんなことを思っていると |