病 (前編)

 2階の雨戸の戸袋の中に巣を作っていたムクドリもどうやらヒナが巣立ちしたようで、姿を見せなくなった。その後始末をしようと思い土曜日、久しぶりにサッシを開け戸袋の中を覗き込んだら、とんでもないことになっていた。

 山のようなフンがあり、その臭いがたまらないというだけならまだよかった。乳白色の小さな粒状のものが液体のように蠢いていたのである。ある塊は戸袋の上の部分から粘り気のある液体のように下に垂れ、自らの重みに耐えられなくなったものは水滴のように下に落ち、また別の塊は戸袋の下部からアルミ製の手すりにかけて緩慢な移動をしていた。このような言葉は使いたくないが、何かが大発生したのだ。

 ネットで調べて、その乳白色の小さな蠢く粒状の物の正体はすぐにわかった。鳥に寄生するトリサシダニというヤツらしい。再びこのようなことは思いたくないが、トリサシダニが大発生したのである。そういえばここ最近、Jさんも僕も手足に痒みを覚えることが多くなっていた。ただ、それは普通に家に生息するダニのせいだと思っていたのだけど、どうやら違ったらしい。ネットの解説にも「鳥が巣立ちをする5〜7月にかけて新しい宿主を探して巣を出て人に被害をあたえることがある」と書かれている。

 ムクドリが巣を作った戸袋のところにある窓はサッシだから開けない限り進入することはできないはずだし、ムクドリのヒナがかえってからはできるだけ刺激をしないようにとずっと閉め切ったままだったが、ヒナがかえる前はずっと開けていたこともあったし、ヒナがかえってからも1、2度は開けたような気もする。

 あまり触りたくない状況であるが、このまま放っておくのも事態を悪化させるだけになるかもしれず、殺虫剤がなかったのでとりあえず窓拭き用の洗剤を大量に噴霧して、雑巾で鳥のフンといっしょに拭うことにした。胸が悪くなりそうな作業だったが、意外にも鳥のフンは比較的簡単に落ちた。しかし、核心部は恐らく戸袋の中にあり、そちらの方はどうしようもなく、また、あまり考えたくもなく後の処理は時間に任せることにした。

 日曜日、あまり見たくはないが、一応、ムクドリの巣があった戸袋の周辺を見回すと動いている物もなく、一安心というところだった。それに気を良くして、もうちょっと念入りに掃除をしてみようという気になり、雨戸を完全に引き出して上から下まで雑巾をかけ、ついでに手すりも拭った。掃除が終わると気のせいかもしれないが、体が痒くなったのでシャワーを浴びた。

 この日はJさんと実家に行くことになっていたので、まだ髪の毛は完全に乾いてはいなかったけど電車に乗り込んだ。電車の中では髪が濡れていて冷えたせいか、数回くしゃみがでた。そして実家についたくらいから体の調子がおかしくなっていったのである。

 まず、急な便意が僕を襲った。しかし、これはいつもあることなので、それほど気にならなかった。その後、Jさんと母が作ってくれた夕食をとったのだけど、食べながら胃の具合がおかしくなっていくのがわかった。重くなり、沈んでいくような感覚になったのである。食べ終える頃には、酷くもたれて酸でも飲み込んだような感じだった。

 8時に実家を出て、家に帰る電車でまた激しい便意が襲った。僕はJさんを待たせて駅のトイレに駆け込んだが、もう後30秒遅かったら恥ずかしいことになっていたかもしれないというほど激しい下痢だった。

 家に帰ってからは喉が痛み出した。それも喉の一部が痛いという感じだった。風邪を引いたなと思った。だけど、季節が季節だし、このときはそれほど大したことにはならないと思っていた。つづく…(2007.6.13)




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