ムクドリの巣

 今、住んでいるところは一軒家である。時給1000円のパートにしては分不相応な感じなのだけど、家賃は以前住んでいたアパートよりも安い。安い理由は、まず物件が古いということにある。築30年を越えている。そして、家の造りが少し変わっている。この家の持ち主は2世帯住宅を考えていたようで、キッチンとトイレが1階と2階にそれぞれあり、それも借主から敬遠されたようだ。そして最大の理由は定期建物賃貸借契約であることだ。つまり2年間限定の借家ということなのだ。2年経った後、再び貸し手と借り手の同意があった場合のみ、契約が延長ということなる。

 始めは今より高い賃料を設定していたそうであるが、上のようなことでなかなか借り手がつかず、思い切った値下げをした後、たまたま最初に物件を見学したのが僕たちだったというわけだ。

 間取りは2Kと広くはないが、実際には収納がやけにたくさんあり、また廊下もあり、狭いながらも庭まであるので全く狭くは感じない。むしろ和室ということもあり、広々として居心地はいい。窓も多いため、風通しもよく、よく晴れた日など庭に面したサッシを開け放つと、何処かの旅館にでも泊っているような気分になれる。

 もともと賃借用に建てた家ではないため、築年数は立っているが造りはいろいろと凝っていて仏間があったり、神棚があったり、床の間があったり、また1階には納戸、2階には狭いがサンルームのようなところまである。

 さて前にも書いたが、このサンルームの雨戸を収納する戸袋のところに野鳥が巣を作った。借りたばかりの頃は雨戸を開けたり、閉めたりしていたので恐らく住み始めてから1週間くらい経った頃であろう。さかんに戸袋の中に出入りしていて、また結構動きが忙しないため、なかなかじっくりと見ることができなかったのだけど、この土曜日の午後、2階でずっとパソコンをしていたので、やっとその機会を得ることができた。インターネットの野鳥図鑑などで調べてみたらオレンジの嘴、頭部と頬にある白い毛、体長などからムクドリのようである。

 そして、今までは成鳥が出入りしているだけだったけど、初めてヒナのエサを求める鳴き声を聞いた。また、初めてつがいでいるところを見ることができた。今までメスの方は卵を温めていたのであろうか?同じ家にムクドリのつがいが巣を作り、ヒナまで産まれるなんてうれしい気がする。無事に成長してほしいと思う。


 土曜日の夜、ささいなことでJさんと喧嘩して家を飛び出してしまった。そのまま、電車で40分くらいのところにある実家に戻った。僕には逃げる場所があるけれど、在日ペルー人のJさんに逃げる場所はない。心に鈍い痛みが続いた。

 日曜日の午後、Jさんが実家に来た。そして、ふたりで、またムクドリのいる家に戻った。今、ムクドリのいる戸袋のすぐ近くでパソコンを打っている。Jさんは部屋の片隅で洗濯物をたたんでいる。

 土曜日の昼はあれだけ騒がしかったのに、今はもう寝ているのか物音ひとつしない。土曜日の夜、激しく言い争った僕たちは今、静かにお互いを見ている。同じ屋根の下に暮らすふた組のつがい。ただ、無事に。そして、仲良く…。(2007.5.21)




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