ゆっくり走ろう

 土曜日にバイクで鎌倉までツーリングに行こうと思っていた。前日の天気予報では沿岸部で少し雲が出るものの、概ね晴れでさらに気温も15度近くまで上がるということだった。

 当日、朝、起きてみると薄暗く、寒い。まだ時刻が早いのかと思って枕元にある時計を見ると8時半。ふとんから起き出して、南側の窓を開けて見ると、空は雲に覆われていた。それほど厚い雲ではなく、雨の心配はなさそうだけど、昨日の気持ちが一気に萎えてしまった。というのも今、僕は花粉症で苦しんでいるからだ。

 気持ちいいほどの天気ならば、多少の辛さをがまんして、初春の鎌倉まで行こうと決意を固めていたのだけど、この天気なら家の中で本を読んだり、CDでも聴いていた方がましなのではないかと思えてきた。しかし、止めるという決意もなかなか固まらず、ずるずると時間だけが過ぎていく。

 ちょっと外に出て様子を見てみようと思い、銀行までお金を下ろしに行った。雲は全天を覆ってはいるが、そのうち切れてきそうな気もする。しかし、やはり目は痒いし、鼻も違和感でいっぱいという感じだ。だけど、ツーリングには行きたい気もするし…。行くべきか、行かざるべきかとハムレットのような心境で迷っているうちにお昼になってしまった。

 お昼は外で取る予定だったが、とりあえずうどんを作って食べた。やはり、体のことを考えて止める方向に重心が移り出した頃、雲が所々切れて陽が落ちて来た。時刻はすでに1時近くになっている。もう、鎌倉まで行って帰ってくるには、ちょっときつい時間だ。だけど…。

 1時過ぎ、僕はバイクに跨り走り出した。ただし、行き先は鎌倉ではなくて、自宅から約10Kmの距離にある城南島海浜公園。ここなら近いし、花粉症もそれほど酷いことにはならないのではないか考えたのだ。恨めしいことに、城南島に着いた時にはほとんど快晴になっていた。

 自動販売機で缶コーヒーを買い、海を眺めながらぼんやりとひとりで飲んだ。これからのことがいろいろと頭に浮かんだ。一見、幸せに思えることでも、気の重くなることもあるし、大変な状況でも妙に心の弾むこともある。人間の心とは不思議な気がするが、或いはそれが人としての弱さとか強さというものかもしれないなどと妙に思索的になってしまった。

 陽が優しくなった頃、帰路に着いた。空いた道をゆっくりと走った。ゆっくり走るとバイクは本当に愉しい。速く走らせると緊張が増すだけでリラックスできず、つまらない気がする。埋立地から環状7号線に入るとさすがに交通量も多くなり、マイペースで走れなくなる。それにしても、みんな何をそんなに慌てているのか、とにかく急いた走りをしている。

 「狭い日本そんなに急いで何処に行く」という標語があるが、狭いから急いでいるのかもしれない。北海道で走っているツーリングライダーで急いでいる人をあまり見かけたことはないが、都内では逆でゆっくりアメリカンな走りをしている人はほとんどいない。ゆっくりと走るということは意外と難しいことなのかもしれないと思った。(2007.3.5)




皆さんのご意見・ご感想をお待ちしています。joshua@xvb.biglobe.ne.jp

TOP INDEX BACK NEXT