消えた便座カバー

 今、勤めている会社は交代でトイレ掃除をすることになっている。2Fにあるトイレは2F、3Fに勤務している従業員が行なう。人数の関係でだいたい3ヶ月に1回くらいの割合で順番が回ってくるが、先週は僕の番だった。

 他に時期なら木、金は暇だから、だいたい最も仕事量が少なくなる金曜日の夕方に行なうことにしていたが、今は繁忙期のため1週間ずっと忙しく行なうことができなかった。月曜日の朝、トイレに入ってみると意外ときれいで、これだったら掃除したことにしてもわからないなと思い、順番表のところに‘掃除しました’という印のサインだけした。それから数時間たって、トイレに行き‘大’の方に入ってみると朝はあった便座カバーがなくなっていた。

 僕はいつもの掃除のときも便座カバーを替えるということはしなかった。というのも便座カバーは女子の従業員が管理しているため、みんな彼女たちに任せているようだった。タオルはトイレ内のロッカーに入っているので、汚れたものは洗濯物入れの中に入れて、新しいものに替えるのだけど、便座カバーだけは何処にあるのかわからなかった。

 初めは女子社員が便座カバーを替えるため一時的に、カバーのない状態になっているのだろうと思っていたが、何日経っても新しい便座カバーはされず白い便座が剥き出しのままになっていた。水曜日に社員のNさんから
「Hさん、便所掃除のとき、便座カバーどうした?」と訊かれた。
「いや、ありましたよ」と僕が言うと
「どうしたんだろうな…。誰も何もしないっていうのも変だよ」と不審顔をしている。

 結局、いつまで経っても誰も便座カバーを付けようとしないため、Nさんが女子社員に言ってそれをもらい、自らしたという。前の便座カバーは一体何処に行ったのか…。それが金曜日に衝撃的なかたちで見つかったのだ。

 女子社員がいつのように新しいタオルを補給しようと男子トイレ内のロッカーを開けたところ、奥の方に便座カバーらしきものが押しこまれていたらしい。それを取り出してみると、何とそれにはべったりとウンチが付着していて大騒ぎ。
「何か、何か、摘む物!摘む物!」と給湯室にいた同僚の女子社員とパートの人に助けを求め、棒を見つけ、その先に引っ掛けて何とか持ち出すことができたという。そして、ふたりにその便座カバーのウンチの付き具合に見せて
「これ、どうしようか?どうやって洗濯しようか?棄ててもいいかな?」と言うので
「棄ててもいい、棄ててもいい」と他の2人が同意してウンチのついた便座カバーはゴミ箱行きとなったそうだ。

 それにしても、誰が便座カバーにウンチを付けてしまったのか?僕は初め、このことに積極的に動いたNさんが怪しいのではないかと睨んでいた。便座カバーがないということを、必要以上に気にしているように思えたし、1番騒いだ者が犯人ということはよくあることだ。Nさんは大酒飲みでここのところ毎週のようにあっちの忘年会、こっちの忘年会と飲み歩いていて、おなかがゆるくなり、ついつい沮喪をしてしまったのではないかと推理したのだ。

 しかし、ここに来て営業のYさんが犯人という説が有力になってきた。彼は月曜日、かなり体調が悪く、おなかを壊していたという事実があったらしい。何でも彼の営業先のホテルから今流行っているノロウィルスの感染者がたくさん出て、彼もそれに侵されているのではないかという噂もあったという。

 ただの座興の噂ならいいが、もし、それがある程度の真実を含んでいると、ウンコ便座カバーが隠されていた男子トイレのロッカーはかなり危険かもしれない。来週になったら、それがロッカーのどの場所に隠されていたかを発見した女子社員に訊かなくてはいけないかなと思っている。(2006.12.16)




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