ツーリング雑記 その2

キャンプ場の主

 あるキャンプ場の管理人さんと話したとき、キャンプ場の主の話しがでた。その人はある無料キャンプ場に滞在しながら、近くの水産会社でアルバイトをしていたらしい。それだけなら問題はないと思うのだけど、何でも新しくテントを張ろうとしているキャンパーに「そこには張るな」とか「お前はここにしろ」とか指示していたという。本来ならそんなことをする権限はないはずなのだけど、長期間いるうちにいつしか横柄になっていき自分が一番過ごし易くなるようにコントロールを始めてしまったようだ。それが原因かどうかはわからないが、そのキャンプ場は今年から有料になった。

 キャンプ場に滞在して近くでアルバイトをするというパターンは富良野の鳥沼キャンプ場が有名だった。ここはキャンプ場に求人広告が貼ってあったくらいだ。雰囲気の悪さがずっと言われていたが、数年前に閉鎖となった。アルバイトをしないまでも、無料のキャンプ場に長期滞在し、そこの主のようになってしまう人はいるらしい。そんな話しも聞いた。

 中川森林公園のキャンプ場には無料で泊まれる高床式のロッジがある。蛍光灯も点き、中も6畳くらいの広さがあって快適らしい。そこに住みついたようになっていた人がいたらしい。料理のうまい他のキャンパーに食事の世話までさせていたという。

 今回の旅行でそんな感じの人たちがいた。場所は北見市の温根湯温泉つつじ公園のキャンプ場だった。彼らは3人で行動していた。迷彩服を着た50代の関西弁の男とその妻と思われる女、そして若い20代くらいの男だった。テントを張る位置を指示するということはなかったが、気に食わないと大声で他のキャンパーを怒鳴ったりしていた。男と女は下品な会話ばかりしていて、常に野卑な笑い声を上げていた。20代の男性は全く大人しかった。カップルで来た人など、そうした雰囲気の耐えられなかったようで、早朝に帰ったりしてしまった。

 長いこと同じ場所にいると、溜まった水が腐るように謙虚さを失い人は横柄になっていくのかもしれない。


家庭の幸福は諸悪の本

 屈斜路湖畔にコタン温泉という無料の露天風呂がある。一応男女別になっているが、実質的には混浴みたいなものだ。屈斜路湖を目前に見渡せる絶好の場所にあるので暑かったのだけど入っていくことにした。

 コタン温泉に行ってみると誰も入っていなかった。僕は服を脱いで温泉に浸かったが、たまに様子を見に来たりする人がいて、なかなか落ち着くことができない。湯も熱く、少し冷ましたいのだけど、そうすると見学に来た人に裸を見られることになるのでそれもままならないのだ。

 しばらくすると家族連れがやって来た。夫と妻、それに男の子がふたりの4人家族だった。見学だけかと思っていたら、どうも入る気でいるようで車に水着を取りに行った。温泉に水着で入るとは…ほとんど混浴なのだから女性なら仕方ないかもしれないが、大の男がみっともないような気がする。

 しかし、そんな僕の気持ちも通じるはずもなく、旦那と小学4年生くらいの長男は海パンを履いて、次男は僕と同じ全裸で入って来た。そして、奥さんはというとそれを湯船のすぐそばに立って見学しているのである。そして、写真を撮ったり、家族同士やかましくて仕方ない。湯の熱かったということもあるが、僕は落ち着くことができず、早々に上がることにした。

 4人は僕が服を着ている最中も貸し切り状態になっている露天風呂で騒いでいた。他人への配慮が全く感じられず、完全に家族だけの世界で生きている感じだ。恐らく入ろうと思って後から来た人も、躊躇し立ち去ってしまうだろう。太宰治は「家庭の幸福は諸悪の本」と自身の作品で書いたが、それが実感できた1日だった。


想像力のない人々

 バイク、特に僕の乗っているようなあまりスピードの出ないオフロードバイクで北海道を旅していると、次から次へと車に抜かれることになる。もしみんなが法定速度を守ったとしたら、僕は1台の車にも抜かれることはない。時速70Km前後で走っている僕のバイクを並ぶ間もなく一気に抜き去っていくのだから、車の速度は時速90〜100Kmくらい出ているはずである。

 最初にバイクで北海道を走ったときは随分と怖かったものだけど、最近は慣れたと思っていた。しかし、今年、僕には彼らが狂人としか思えなくなった。何故、そんな気持ちになったのか自分でもわからないけど、スピードを上げることの危険性を全く感じていないように先へ先へと突っ走る車が狂気を帯びて見えたのだ。

 中には反対車線に出ることさえせず、バイクのすぐ横を猛スピードで抜いていく車もある。バイクは不安定な乗り物だ。風にあおられれば、横に1〜2m簡単に流されたりする。もし、そのとき危険な追い越しにあったら…。

 彼らに決定的に欠けているのは想像力であり、他者への思いやりだ。事故を起こして、初めて自らのあまりに危険な行為に気づくのかもしれない。しかし、それでは遅過ぎる。(2006.8.19)




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