格差社会

 先週の土曜日、前の職場の仲間たちと約1年半ぶりに飲んだ。いっしょに仕事をしていたとき一番若かった20才の人が今はもう34才なのだから、15年近い付き合いになる。それぞれ職場を離れた後も年に2〜3回の頻度で集って飲んでいたのだけど、今回これだけ間隔が空いてしまったのには理由がある。主要なメンバーのひとりYさんの行方がわからなくなってしまったのだ。

 Yさんは今年で40才になる男性で、僕が前に勤めていた会社でずっとアルバイトをしていた。とても明るい人で、何の問題もないような感じだったが、かなり以前から母親が闇金に手を出していたらしい。その催促の電話が彼の職場にも頻繁に入るようになり、退職してしまったそうである。その後、新しいアルバイトが決まったとの連絡があったそうだけど、それを最後に一切の連絡が取れなくなってしまったという。

 闇金から逃れるため住所を移ったとも考えられるが、かなり心配な状況だ。次の集りのときには顔を見たいが、今はただ無事を祈るしかない。集ったメンバーも状況が変わった人もいれば、全く以前のままの人もいて様々だ。

 前の職場で今でも働いているのはいつも幹事役をしてくれるHさんとUさんのふたりだ。Uさんは大学を卒業してから20年、ずっとその会社でバイトをしている。時給もここ10年ほどは950円で据え置きのままらしいが、独り者のUさんは気楽に働ける職場が一番らしく、「バイトは定年がないから、クビになるまでずっといるよ」などと言っていた。Hさんはカイロの勉強をしていて、いずれは独立を考えているらしい。

 当時20才と一番若かったC君は家を買ったという。同じ職場でバイトをしていた女性と数年前に結婚し、今では3人の子供の父親である。月々9万円の25年ローンだそうだ。35年よりはましと、みんなから慰められていたが先のことを考えると気が重くなるらしい。しかし、責任が重いということは、それなりの充実感はあるわけだし、家族の笑顔を糧にがんばれるのではないだろうかなどと思った。

 彼と対照的なのが、彼の友達のI君だ。ふたりとも同じ年なのだけど、I君は未だ定職には就いておらず、モバイトをしているという。この日も4時間、ユニクロで働いていたという。I君はUさんとは違い、正社員を目指しているだけに忸怩たるものがあるようでいつもだいたいそうなのだけど気分も沈みがちだった。特に若いとき同じ職場でバイトをしていたC君のその後と自分を比較しているようで、口から出るのは愚痴ばかりという感じである。

 正に今いわれている格差社会を目の当たりにする光景であったが、僕にはふたりに格差があるようにはどうしても思えなかった。確かに一方はそれなりに堅実な会社に勤めて家族を持ち家も買い、一方はグッドウィルのモバイトでその日暮らしという状況ではあるが、ただそれだけの違いという気がする。

 ふたりの間にあるもの、それは‘格差’ではなく、ただ単なる‘差’だけのように思えた。そう、それは上と下との差ではなく、右と左の差である。どのように生きるのが最良かなどという問題は、個人の価値観に帰結するべきものであって、他人がまして社会がどうこう決めるものではないと思う。I君はI君にあった生き方をすればいいのであって、他人をうらやむ必要はない。I君自身、社会の罠にはまり、がんじがらめになっているように感じた。

 始めて出会ってから15年、飲み会の雰囲気もずいぶんと変わった。以前はとにかくみんな元気で、周りの客に迷惑がかかるくらいだったが、今ではみんな落ち着いて酒を飲み、料理を食べ、話している。ちょっと寂しいような、それでいてうれしいようなそんな気がした。

 11時まで飲み、主婦のSさんとUさんといっしょに帰った。帰りの電車の中、3人で桜花賞の予想をした。(2006.4.14)




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