雨の予報が出ていた日曜日、日系ペルー人のJさんと花見に行った。Jさんは5時からスーパーのバイトが入っていて、ほんとは会う予定はなかったのだけど、金曜日にあのような出来事があったため気を使って誘ってくれ、僕もその好意に甘えることにしたのだ。 朝は薄日が差していて「これは予報が外れたかな?」と思ったが、家を出る頃には雲が厚くなり、いつ雨が落ちて来てもおかしくないような状態になっていたため、僕は買ったばかりのグリーンの傘を持って行くことにした。
K駅でJさんに会うと、Jさんは雨は降らないものと決めていて傘を持ってきてなかった。「昨日の夜、降ったからもう降らないよ」と彼女は言った。 さくら坂に行くことにし、東急池上線の雪谷大塚で下車した。さくら坂に一番近い駅は多摩川線の沼部なのだけど、雪谷大塚から歩いて行くとさくら坂の入口にある桜の木がピンクのトンネルのように徐々に見えてくるので何ともいえない風情を味わうことができる。
今にも雨が降り出しそうな空が幸いしてか、さくら坂はそれほど混んでいなかった。天気がよければ数人の人から‘シャッターを押してもらえますか?’と声をかけられるところであるが、そんなこともなくゆっくりとふたりで満開の桜を愉しむことができた。 さくら坂の桜はほんとにきれいだった。小さなピンクの花の多重奏に僕の気持ちは酔った。桜並木のトンネルを一往復半して、僕たちは大きな鯉が泳いでいる水路沿いに多摩川に向った。Jさんは金曜日にあったことを心配していた。Yさんが「Hさんは後先考えずに行動するタイプじゃないから大丈夫よ」と言った言葉を信じようとしていた。 僕はそれほど後先を考えるタイプではないが、最悪のことだけは考えているとJさんに言った。自分の中に‘そろそろ潮時かな’との思いがないわけではないが、急いで結論を出すこともない。しばらく様子を見てからでもいいだろう。 多摩川の河川敷には冷たい風が吹いていた。その中、ふたり並んでベンチに座った。(2006.4.6) |